【集中治療専門医への道②】CanMEDSのフレームワークについて

現役医師が、豪州CICMの専門医育成に学ぶ「CanMEDS」7つの役割を解説。自身の成長と将来の臨床留学に向けた情報整理と考察を共有します。 オーストラリア臨床留学への道

1. はじめに

こんにちは、そらいろドクターです。(はじめましての方、著者プロフィールはこちら

「専門医への道」シリーズ、今回は2回目です。前回はオーストラリア集中治療医学会(CICM)の評価基準を参考に、私自身の専門医取得と将来の臨床留学に向けた大まかな戦略ロードマップについて考えてみました。(ぜひ前回の記事を御覧になられてない方はそちらの記事もご覧ください→『【集中治療専門医への道①】CICM基準から逆算したロードマップと専門医の資質』)

その中で、CICMが医師の「多面的な能力」を重視している点に触れましたが、今回はその根幹にある「CanMEDS(キャンメズ)フレームワーク」について、もう少し深く自分なりに情報を整理してみたいと思います。

正直なところ、これまで日本の専門医制度の中で「CanMEDS」という言葉を強く意識する機会は多くありませんでした。しかし、CICMの資料を読み解くうちに、このフレームワークが彼らの専門医育成において非常に重要な柱となっていることを知り、これは自分自身の目標設定や日々の臨床における意識の持ち方にも大きなヒントを与えてくれるのではないかと感じるようになりました。

CICMの公式ウェブサイト「Curriculum Renewal」のページ(CICM Curriculum Renewal)を見ると、まさに今、このCanMEDSフレームワークを軸に研修プログラム全体を見直すという大きなプロジェクトが進行中であることがわかります。このことからも、CanMEDSがいかに現代の集中治療専門医育成において重要な位置を占めているかが伺えます。

この記事では、CanMEDSとは一体何なのか、その7つの役割、そしてなぜそれが私自身の専門医への道、ひいては将来のオーストラリアでの挑戦にとって無視できない視点となるのか、そんなことを自分なりに整理し、記録として残しておきたいと思います。

この記事のポイント

  • 国際的な医師の能力指標「CanMEDSフレームワーク」の概要と7つの役割について。
  • 豪州CICMがCanMEDSを専門医育成の柱とする理由とその重要性について。
  • 日本の専門医制度とCanMEDSの関連性についての私的考察。
  • CanMEDSの各役割が、集中治療の現場でどう具体的に現れるか、私見に基づき詳述。
  • このフレームワークを意識することが、日々の臨床やログブック作成、自己成長にどう繋がるかを考察。

(想定読了時間:約15分)

2. CanMEDSフレームワークについて

このCanMEDS、調べてみると実はカナダ王立内科外科医協会(Royal College of Physicians and Surgeons of Canada, RCPSC)が開発した医師のコンピテンシー・フレームワークのようです。医師に必要な能力を、7つの異なる、しかし相互に関連し合う役割として定義しています。

その中心には、やはり「Medical Expert(医学専門家)」としての役割があります。これは、私たちが医師として持つべき中核的な知識・技術・判断力を指します。そして、この中核的な役割を支え、より効果的に発揮するために、以下の6つの役割が統合的に機能するとされています。

  1. Communicator (コミュニケーター)
  2. Collaborator (協働者)
  3. Leader (リーダー)
  4. Health Advocate (健康支援者/健康の擁護者)
  5. Scholar (学者/探求者)
  6. Professional (プロフェッショナル)

LIME NetworkのウェブサイトにあるCICMの情報ページ(LIME Network – CICM Pathway)でも、このCanMEDSに基づいたプログラム編成が紹介されていることからも、オーストラリアの集中治療領域ではこれがスタンダードな考え方であることがわかります。


3. CanMEDSに注目する理由

では、なぜこのCanMEDSフレームワークが、CICMを目指す私にとって、そして日本の専門医を目指す上でも重要だと感じるのでしょうか。

実は、日本の集中治療医学会の専攻医研修マニュアルの序文にも、

「集中治療科専門医を取得するためには、重篤な病態生理を理解し、各種生命維持装置に関する知識と技術を習得するのみならず、患者・家族への配慮、メディカルスタッフとのコミュニケーション能力など、医師としての倫理性・社会性を修得しなければなりません。集中治療科専門医は、各診療科と横断的に連携し、各種医療従事者と協力することにより、病院全体の治療レベルを向上させ、協力してエビデンスを構築していく役割も担っており…」

といった記載があります。これを読んだとき、「ああ、これもある意味CanMEDSで語られていることと同じなんだな」と腑に落ちる感覚がありました。ただCICMの資料を読むと、これらの重要な資質がより明確に「7つの役割」としてフレームワーク化され、研修や評価の対象として具体的に位置づけられていることに、改めてその重視度合いを痛感させられました。

  • 非技術的スキルの「見える化」と育成指針:
    CanMEDSは、知識や技術以外の「非技術的スキル」を具体的に定義し、評価され得る能力として「見える化」してくれます。これは、自身の強みや弱みを客観的に把握し、バランス良く成長していくための明確な指針になると感じています。
  • CICMの評価基準そのもの:
    CICMは研修カリキュラムの構築や評価にCanMEDSを全面的に採用しています(CICM Curriculum Renewal参照)。
    将来CICMの評価を受ける際には、これら7つの役割すべてにおいて一定レベルの能力を具体的に示す必要があるわけです。であれば、日本にいる今のうちから、このフレームワークを意識して経験を積み、記録しておくことは、非常に戦略的な準備と言えるのではないでしょうか。
  • 医師としての総合力を高める普遍的アプローチ:
    これは単に「海外の基準に合わせる」という話ではなく、医師としての総合力を高めるための普遍的なアプローチだと感じています。CanMEDSを意識することで、日々の臨床経験からより多くのことを学び取り、より質の高い専門医へと成長できるのではないかと期待しています。

4. CanMEDS「7つの役割」の解釈(私見含む)

ここでは、CanMEDSの7つの各役割について、私自身の言葉で、集中治療や救急の現場でどのように現れるのか、そのイメージを簡単に整理してみます。これはあくまで現時点での私の解釈であり、今後学びを深める中で変わっていくかもしれません。

  • Medical Expert (医学専門家):
    私たちの根幹。複雑な病態を迅速かつ正確に診断し、最新のエビデンスと個々の患者背景に基づいて最適な治療戦略を立案・実行する力。
  • Communicator (コミュニケーター):
    患者さんやご家族の不安に寄り添い、厳しい情報であっても誠実に、分かりやすく伝える力。そして、医療チーム内での円滑で正確な情報共有。
  • Collaborator (協働者):
    看護師、薬剤師、理学療法士など、多職種チームの一員として、それぞれの専門性を尊重し、情報を共有し、共通の目標に向かって効果的に協働する力。
  • Leader (リーダー):
    チーム全体のパフォーマンスを最大限に引き出し、困難な状況でも冷静に意思決定を行い、メンバーを導く力。蘇生場面や多重課題に直面した際のマネジメント能力。
  • Health Advocate (健康支援者/健康の擁護者):
    個々の患者さんの権利や最善の利益を守ることはもちろん、ICU退室後のQOL向上(PICS対策)や医療安全の推進といった、より広い視点での活動。
  • Scholar (学者/探求者):
    日々の臨床から疑問を見出し、最新情報を学び続け、批判的に吟味する姿勢。そして、得られた知見を臨床に還元し、可能であれば研究や教育活動を通じて医学の発展に貢献すること。
  • Professional (プロフェッショナル):
    高い倫理観と責任感を持ち、誠実に医療を実践する姿勢。自己の限界を認識し、常に省察し、心身の健康を維持しながら専門職としての責務を全うすること。

5. CanMEDSを意識した経験の記録

これらの7つの役割を意識することで、日々の臨床経験の記録、特にログブックの質が大きく変わってくるのではないかと期待しています。

単に「〇〇という疾患を経験した」「△△という手技を施行した」という記録だけでなく、「その経験を通じて、CanMEDSのどの役割においてどんな学びや課題があったのか」を書き加える。

超シンプルに例えれば、

「困難な気道確保の症例で、医学的な適応を冷静に判断(Medical Expert)し、同時にチームへの的確な指示(Leader)、そして最終的には家族への難しい状況の説明(Communicator)が試された」

といった具合です。

この具体的なログブックへの落とし込み方については、次回の記事で詳しく考えてみたいと思います。CanMEDSを意識した記録は、自己成長を促すだけでなく、将来的にCICMのような海外の専門医制度に挑戦する際にも、自身の多面的な能力をアピールするための強力な材料になると信じています。


まとめ

CanMEDSフレームワークは、私にとって、複雑で多岐にわたる医師の能力を整理し、理解するための「共通言語」のようなものだと感じています。そしてそれは、日本の専門医としての質を高め、さらには国際的な舞台で活躍するための重要な道しるべにもなり得ます。

CICMがこのフレームワークを重視し、現在もカリキュラムを進化させ続けていることを知り、私自身もこの視点を取り入れながら、日々の臨床と自己研鑽に励んでいきたいと改めて思いました。

この「専門医への道」シリーズ、次回は「ログブック作成術」について、このCanMEDSの視点も交えながら、具体的な記録方法や私の試行錯誤をお話しする予定です。

今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました!

そらいろドクター

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