こんにちは!そらいろドクターです。(はじめましての方、著者プロフィールはこちら)
さて、このブログ『そらいろドクター奮闘記』では、4年後のオーストラリア臨床留学という目標に向けた私の挑戦を記録しています。以前の記事(オーストラリア医師登録の道は複雑?Pathway完全解説)では、オーストラリアで医師として働くための主要な3つのPathway(道筋)について、概要を整理しました。
しかし、この「Pathway」の話、調べていくと本当に複雑で分かりにくいんです…。
公式サイトを読んでも、「結局どのPathwayが自分に当てはまって、その後どうなるの?」と混乱してしまう方も多いのではないでしょうか。
実はつい先日、Drs Prime Academiaというオンラインセミナーで、実際にオーストラリアで活躍されている齋藤 慶人先生と北野 麻理恵先生(Yoshito & Marie|日本人医師のオーストラリア留学情報サイトを運営)が、『オーストラリアで医師として働くための手引き』と題して「Pathway」と「Registration(医師登録)」の違いについて、非常に分かりやすく解説してくださっているのを聞く機会がありました。以前からPodcastやブログ、SNSで情報発信されていることは存じ上げていましたが、やはり現地の方のリアルな解説を聞くと理解度が段違いでした。「なるほど、PathwayとRegistrationはそういう関係だったのか!」と、もやもやがすーっと解消され、視界が一気にクリアになりました。こうして貴重な情報を日本語で分かりやすく提供してくださる先輩方の存在は、本当に有り難く、私のモチベーションにも繋がっています。(勝手に紹介してスミマセン。勝手に尊敬しています。)
重要なので繰り返しますが、「Pathway」と「Registration」は全く別の概念なのです。
ここを混同してしまうと、留学計画全体が的外れなものになりかねません。
- Pathwayとは:IMG(国際医学卒業生)が、AHPRA(Australian Health Practitioner Regulation Agency)への医師登録資格を得るための『道筋』のことのようです。
資格や出身国によって、どの道筋を通るかが決まる。 - Registrationとは:Pathwayを経て登録資格を得た医師が、実際にオーストラリアで診療行為を行うために必要なAHPRAへの『医師登録(免許)』のこと。
これにはいくつかの種類があり、できる業務範囲や監督の有無が異なるようです!
今回は、このPathwayとRegistrationの違いを明確に意識しながら、私のような専門医経験を持つIMGがオーストラリアで臨床経験を積むための道筋について、現状の理解と考察を改めて記事にしてみました。
⚠️本記事を読み進めていくにあたっての注意点⚠️
あくまで目的は、『私の頭の中の現状整理』です。中には誤った情報や私の解釈が含まれている可能性があります。正しい情報/最新の情報に関しては、必ず公式ページからご自身の目で確認していただけましたら幸いです。リンクもそれぞれ貼っておきます。
また、もし経験者や有識者の方で、私の理解が間違っている部分に気づいた方がいらっしゃいましたら、コメントや問い合わせ、Xの方へのコメントなどで教えていただけましたら幸いです…(TT)
では本題。
ステップ1:自分はどの「Pathway」を通るのか?
まず、AHPRAへの医師登録資格を得るための道筋=Pathwayについてです。
IMG(国際医学卒業生)にとって主要なものは以下の通りです。
重要なのは、どのPathwayを選ぶかによって、その後の取得可能なRegistration(医師登録)の種類やプロセスが異なるという点です。
Pathwayの種類 | 主な対象者 | 概要と特徴 | 主な取得可能Registration | 私(日本の専門医)の該当 |
---|---|---|---|---|
Standard Pathway | 他の主要Pathwayに該当しないIMG | AMC MCQ + AMC 臨床技能試験 or 認定施設でのWBA完了後、AMC Certificateを経る経路。 | AMC Certificate取得後、主にProvisional Registration を申請し、監督下勤務を経て、General Registration を目指す。 | ◎ 時間がかかる点や試験がネックだが、最も確実に臨床留学に繋がる可能性の高い経路 |
Specialist Pathway | 海外の専門医資格を持ち、豪州で専門医登録を目指すIMG | 豪州の専門医カレッジによる資格評価を受ける。評価次第で追加研修や試験が必要。 | 評価結果に基づき、Specialist Registrationへ。または、追加研修のためにProvisional/Limited Registrationとなる場合もある。 | △ 現実性は低そう?(日本の専門医資格の同等性評価はハードルが高いらしい。私自身、まだ詳細未調査) |
Short Term Training in a Medical Specialty Pathway | 特定の専門分野で短期(通常最長24ヶ月)の高度な研修を受けるIMG | 専門医登録や永続的な登録には繋がらない。 特定のスキル習得が目的。 | Limited Registration(研修期間に限定される)。 | △ 専門性向上が目的だが、General Registrationには繋がらない。 自力でのポジション獲得が最難関。 |
Competent Authority Pathway | 指定国(英、米、加、NZ、愛)のIMG | 省略 | 省略 | × 対象外(日本は指定国ではない) |
表1: IMGのための主要な医師登録Pathwayと取得可能なRegistration概要
上記のように、日本の医学部を卒業し、日本の専門医資格を持つ私の場合、General Registration(一般登録)を目指す上で現実的に選択可能なのは、ほぼStandard Pathway一択となりそうです。Specialist Pathwayは専門医としての登録がゴールですが、前述の通りハードルが高い(と私は現時点で考えています)。
Short Term Training Pathwayは特定のスキルアップを目的とした短期間の臨床留学のためのpathwayなので、今回の私の目的に最もマッチしている概念と言えそうです。ただ一般登録には繋がらない点や、とにかくポジション確保が最難関とされるpathwayだと聞きます。もちろん残りの準備期間で最善を尽くして、このpathwayも一つの選択肢として考えていきたいと思っています。
どのPathwayを選ぶのか(あるいは選ばなければいけないのか)非常に悩ましいし分かりづらいのですが、ここではこれから一般登録を目指す多くの方が該当するStandard Pathwayを進むことを前提に、次のステップである「Registration」について詳しく見ていきます。
ステップ2:Pathwayとは別の概念?「Registration」とは?
さて、自身に適切なPathwayを選択したら次に、実際に働くためのAHPRAへの「Registration(医師登録)」を申請・取得する必要があるようです。Medical Board of Australia (MBA)の公式ページにも解説がありますが、このRegistrationにはいくつかの種類があり、それぞれ意味合いが異なります。
Registrationの種類と概要(MBA公式ページより)
- Provisional Registration(暫定登録): これは、General Registration(一般登録)の資格を得るために、オーストラリア国内で一定期間の監督下での実務経験(Supervised Practice)が必要な医師に与えられる一時的な登録です。まさに一般登録への「橋渡し」的存在。
AMC Certificateを持つIMGやCompetent Authority Pathwayの資格があるIMGが最初に取得することが多いようです。最長12ヶ月間有効で、原則2回まで更新可能。必ず承認された特定のポジションで、監督下で働く必要があります。
(詳しくはMBAのProvisional Registrationページをご参照ください。) - Limited Registration(限定登録): 特定の目的(例:大学院研修、医師不足地域での就労、公共の利益、教育・研究)のために、限られた範囲・条件下での診療を許可すると記載されてます。
通常、General/Specialist Registrationの資格をまだ満たしていないIMGが対象となるようです。
重要な注意点として、MBAによれば、AMC Certificate保持者やCompetent Authority Pathway対象者は通常は前述のProvisional Registrationを申請するため、一般的な限定登録(Postgraduate training or supervised practiceを除く)には該当しないことが多いようです。
ここの『ProvisionalとLimitedの違い』は、当初混同してましたが、ちゃんと公式ページに記載がありました。
(詳しくはMBAのLimited Registrationページをご参照ください。) - General Registration(一般登録): オーストラリアで独立して(監督なしで)診療を行うことができる、標準的な医師登録です。Aus/NZの医学部卒業生(インターンシップ修了後)や、Provisional Registrationでの監督下勤務を完了したIMGなどが対象となります。
一度取得すれば、更新手続きにより維持でき、多くの医師が最終的に目指す登録区分です。
(詳しくはMBAのGeneral Registrationページをご参照ください。) - Specialist Registration(専門医登録): 特定の専門分野における専門医として公的に認められた医師のための登録です。対象者は、豪州の専門医カレッジのフェローシップを持つ医師や、Specialist Pathwayで同等と評価されたSIMG(専門医資格を持つIMG)などです。
(詳しくはMBAのSpecialist Registrationページをご参照ください。)
AMC Certificate取得からGeneral Registrationまでの流れ(Standard Pathwayの場合)
Standard Pathwayを進む者にとって、特に重要なのがAMC Certificate取得後の流れです。MBAの解説やこれまでの調査をまとめると、以下のようになります。
(AMC Certificates取得の流れについては、ACMの公式ページに詳細な記載があります。)
- AMC MCQ試験と臨床技能試験(またはWBA)の両方に合格し、AMC Certificateを取得する。
(AMCの各試験の難易度を考えると現実的に日本国内での完結は難易度が高いとされているようですが、一応日本でも完結可能なようです!) - オーストラリア国内で、監督可能なポジション(Job offer)を確保する。
- 承認された監督計画(Supervision Plan)を作成する。
- 上記を添えてAHPRAに申請し、一般的にはProvisional Registration(暫定登録)を取得する。
- Provisional( or Limited Registration)の下で、承認されたポジション下で、原則1年間(最低47週間)の監督下実務を行う。
- 監督下実務を無事に完了し、その他の要件を満たせば、General Registration(一般登録)を申請する資格を得る。
改めて整理すると、道のりの長さがよく分かりますね…。AMC試験合格がゴールではなく、そこからさらに1年間の「仮免許期間」のようなものがある、という認識が重要です。
ステップ3:現地での働き方 – 登録と役職(ポジション)の関係
では、取得したRegistrationの種類と、オーストラリアの病院での役職(ポジション)は、具体的にどのように結びつくのでしょうか?
調べてはみたはいいものの、正直何が本当に正しい情報なのか?については分かっていません…。
(実際に現地で働いている諸先輩方に聞ける環境があれば、今後聞いてみたいと思っています。)
以下は私の現時点の考察(ほとんど妄想!)です。
- Provisional / Limited Registration + RMO/SHO/HMO (PGY2+) ポジション:
これが、Standard Pathwayを進む多くのIMGにとって、最初の働き方になるのではないでしょうか?provisional or limited registration下で、ジュニアドクター(卒後2年目以上)として、指導医の監督を受けながら様々な科をローテーションするようです。
ここで1年間、問題なく勤務を完了することが、General Registration取得への道となります。 - General Registration + RMO/SHO/HMO ポジション: 監督下勤務を終え、晴れてgeneral registrationを取得した後も、専門研修に進む準備期間として、引き続きRMO/SHOレベルで働く医師もいるようです。
- General Registration + Unaccredited Registrar / PHO ポジション:
general registrationを持ち、ある程度の臨床経験を積んだ医師(IMG含む)が、専門研修プログラム(Accredited Training)に入る前段階として、あるいは専門研修とは別のキャリアパスとして、このポジションに就くことがあるようです。
Registrar(現地における Collegeの専門医プログラム的なものに乗った専攻医)レベルの業務(より専門的な患者管理や手技など)を行えるようですが、正式な研修としての保証はないようです。「非認定レジストラ」という言い方が一般的かは分かりませんが、「Service Registrar」や、クイーンズランド州では「PHO (Principal House Officer)」といった呼称も使われるようです。 - General Registration + Accredited Registrar / Trainee ポジション:
これは、専門医カレッジ(CICMなど)の正式な研修プログラムに採用された専門研修医です。非常に競争が激しく、多くの場合、永住権や市民権が必要とされる狭き門とされます。
こうしてみると、私のような日本の専門医が目指す現実的な道筋は、
① Standard Pathway (AMC試験)突破 →
② Provisional/Limited Registration取得 + RMO/SHOポジション確保 →
③ 1年間の監督下勤務 →
④ General Registration取得 →
⑤ Unaccredited Registrar / PHO ポジション獲得を目指す
という流れが、Standard pathwayにおける最短での専門的な臨床現場での研鑽を積む道筋のようにも思えます。
②のRMO/SHOとして働く際に、希望する救急/集中治療関連の業務にどれだけ関与できるかは、配属先の病院やローテーション次第であり、現時点では不確実な部分だと思いますし、専門的な研鑽という点では、私の目標は⑤のポジションを目指すことになりそうです。
そこで生じた疑問が、
『provisional registration下でも、この職位の門戸は開かれているのか?』ということ。
つまり、日本からAMC certificatesを取得した状態で、就活さえうまくいけば(日本での専門医資格や経験をアピールして認められれば)いきなり現地のRMOを経ずに、Unaccredited RegistrarやPHO的な立場で着職できるのか?
それが叶わないとしたらRMOとして1年間経験した後に、2年目からこのような専門性の高い職位に採用される可能性はどの程度あるのか?(可能性が低いなら、研修してるうちに臨床留学期間が終わるかも…)
ということ。
正直何年、現地での臨床留学ができるか分からない私にとって、非常に重要な問いではありますが、こればかりは中々ネットの情報を渉猟していても結局分からないままでしたので、もし現地の諸先輩方に質問できるチャンスがあればぜひしてみたいと思っています。
ステップ4:戦略的準備:今、何をすべきか?
ロードマップがより具体的になったことで、「今やるべきこと」もさらに明確になりました。
- AHPRA/AMCの情報収集: Pathwayの要件、試験情報、PSV、英語能力要件などを公式サイトで随時アップデート。できることがあれば、着手する。
- 英語: IELTSやOETの目標スコア達成は必須。
計画的に学習を進める。(私の直近の奮闘ぶりはこちらやこちら!) - AMC試験対策: 最重要課題の一つとして準備を進める。(英語の目処が立ち始めたらかな…)
- CV(履歴書)強化戦略: どの道を選ぶにせよ、これまでの臨床経験(特に専門分野)、手技、研究業績などを効果的にアピールできるCVを作成することが重要のようです。
今後の経験を形に残すための、log bookの作成を検討しています。
またオーストラリアの標準形式に合わせる必要もあります。(これも今後の記事で!) - 日本での経験・実績の積み重ね: 日々の臨床業務、専門医としてのスキルアップ、研究活動、教育経験など、全てが将来の糧となる。
- 求職活動の情報収集: 今すぐ応募できなくても、各州の募集キャンペーン(例:QLD RMO Campaignは例年6月頃)の情報をチェックし、プロセスや求められる要件のイメージを掴んでおくことが重要と考えています。
- ネットワーキング: ブログやSNS、学会などを通じて、実際にオーストラリアで活躍されている先輩医師と繋がり、可能であればアドバイスをいただく。(コミュニケーションが苦手なので、課題!)
まさに、戦略的に、そして粘り強く、一つ一つのステップをクリアしていく必要性を再認識しました。
ステップ5:豪州でのキャリアと生活を妄想して…
今回、オーストラリアでの医師の働き方やキャリアパスを調べるうちに、正直なところ、「現地でキャリアを築く」ということにも少し興味が出てきたのは事実です。専門性を深めながら、日本とは異なる環境で働く…魅力的な響きです。
しかし、そこには大きな現実問題もあります。
当たり前ですが、現在の医局との関係、経済的な問題(住宅ローン!)、そして一番に家族(特に子供たちの教育や将来)のこと…などを考えると、安易に「移住」という選択肢を考えることはできません。「夢を見るのは自由」ですが、まずは当初の目標である「臨床留学(期間を決めた経験)」を達成することに集中したいと考えています。
オーストラリアでの生活や仕事のリアルについても、Web上の情報や先人たちのブログなどを参考に想像を膨らませています。今後、これらの情報も整理して記事にしてみようかと思ってます。
まとめ
さて、今回は「Pathway」と「Registration」という二つの重要概念を整理することで、オーストラリア臨床留学への道筋が、より解像度高く、そして現実味を帯びて見えてきました。
私のような日本の専門医が、専門性を活かしつつ臨床経験を積むためには、多くの場合は『Short term training』の形での臨床留学が主流だったようです。ただ、今回色々と調べていて分かったこととしては、もしかしたらStandard Pathwayを突破し、Provisional/Limited RegistrationでRMO/SHOとしてキャリアをスタートさせ、General Registration取得後(あるいは取得前でも??)にUnaccredited Registrar/PHOなどを目指す、という段階的なステップでも目標達成が可能かもしれない、ということ。(もちろん実情は異なるかもしれませんが…)
道のりは決して単純ではありませんが、「やるべきこと」は明確・単純です。
私の当面の最重要課題は、英語力(まずは半年後のIELTS 6.5達成!)です。
情報収集ばかりで、肝心の学習時間が確保出来ないようでは元も子もありませんね(笑)
では今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。
注記・免責事項:
この記事は、筆者が収集した情報や個人的な考察に基づいていますが、オーストラリアの医師登録制度やビザに関する情報は頻繁に変更される可能性があります。必ずAHPRA、AMC、オーストラリア内務省、関連する州の保健省などの公式サイトで最新かつ正確な情報をご確認ください。また、この記事は一般的な情報整理/提供を目的としており、個別の状況に対するアドバイスではありません。
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