こんにちは!そらいろドクターです。(はじめましての方、著者プロフィールはこちら)
初期研修医の先生方、当直や救急外来(ER)での「めまい」患者さんへの対応、緊張しますよね。「原因が多岐にわたるし、ヤバい病気を見逃したらどうしよう…」とプレッシャーを感じている先生も多いのではないでしょうか。
かくいう私も同じでした。「めまいなんて、だいたい耳から来る良性のものだろうし、とりあえずMRI撮って中枢性を否定しておけばいいんでしょ!」…恥ずかしながら、そんな風に少し安易に考えてしまっていた時期がありました。(今思うと本当に冷や汗が出ます…)
実際、めまいはER受診の約2~5%を占める非常にコモンな主訴ですが[2]、その裏には良性の末梢性めまいから、緊急対応が必要な中枢性めまい(特に脳卒中)まで隠れており[3]、見逃しは許されません。特に、後方循環系の脳梗塞では20%で明らかな神経学的徴候がなかったとの報告もあり[4]、近年では後方循環系脳梗塞の誤診率が37%にものぼるとも言われています[5]。
さて、では実際にどのような点に注意をして診療すればよいのでしょうか?
皆様の中には、「めまいの性状」を詳しく聞くことが診断の近道だと思っている方、いませんか?
かつては「ぐるぐる回る(vertigo)=前庭系」「ふわふわする(dizziness)=心血管系/神経系」と分類するアプローチがありましたが、これまでの研究により、患者さんの表現は曖昧で変化しやすく、このアプローチは信頼性が低いことが示されています[6, 7]。症状の質だけで判断しようとしても、診断の質は上がらないのです。
では、どうすればいいのか? 鍵となるのは、症状のTiming (時間経過) と Triggers (誘因)、そして的を絞った診察です。今回は、私が経験した症例を通して、注意すべきピットフォール、安全かつ的確に対応するための、体系的な思考プロセスを一緒に辿ってみましょう。
症例提示:ERに「ぐるぐる回る」と患者さんが…
ある日の当直帯、救急外来に中年の男性Aさんが「突然、天井がぐるぐる回りだして吐き気が止まらない」と搬送されてきました。あなたがファーストタッチをするとしましょう。
初期情報
- 患者: 50代男性、Aさん
- 主訴: 回転性めまい、嘔気・嘔吐
- 発症: 約3時間前、自宅でテレビを見ていたら突然発症。めまいは持続している。頭を動かすと増悪する。
- 随伴症状: 嘔吐数回あり。頭痛や麻痺、呂律困難などは本人は自覚していない。
- 既往歴: 高血圧、脂質異常症で内服治療中。喫煙歴あり。
さあ、皆さんなら、まず何を考え、どう動きますか?
Step 1: まずはABC!そして病歴聴取は「TiTrATE」で核心に迫る!
どんな重症患者さんでも、まずはABCDEアプローチが基本ですね!(詳細は以前の外傷初期診療の記事でも触れましたが、めまいに限らず重要です)
Aさんの場合、来院時バイタルは安定しており、気道・呼吸・循環に明らかな異常はなさそうです。次に重要なのは詳細な病歴聴取です。ここで『TiTrATEフレームワーク』[8]の考え方が役立ちます。
TiTrATEアプローチとは?
TiTrATEは、症状のTiming(タイミング)、Triggers(誘因)、そして後述するTargeted Examination(的を絞った診察)に基づいて診断を進めるアプローチです[8]。経験や症状の質への依存を減らし、客観的な情報から系統的に鑑別を進めることで、診断精度向上や不要な検査削減の効果も期待されています[8, 9]。特に重要なのが、Timing(タイミング)の正確な把握です。
Timingを深掘りする:「Onset」「Duration」「Evolution」
TiTrATEアプローチにおけるTiming(タイミング)とは、単に症状の「持続時間」だけを指すのではなく、「発症様式(Onset)」「持続時間(Duration)」「経過(Evolution)」という3つの側面を含んだ概念です。このTimingを把握することが、最初の重要なステップとなります。
1. まず、症状が「持続的」か「発作性(間欠的)」かを見極める
TiTrATEアプローチでは、まず患者さんのめまいが「ずっと続いているのか(持続的)」、それとも「良くなったり悪くなったりを繰り返しているのか(発作性・間欠的)」を問診で明らかにします。これにより、大きく以下の2つの臨床症候群に分類します。
臨床症候群 | 定義 | Timingの特徴 | 主な鑑別疾患例 |
---|---|---|---|
Episodic Vestibular Syndrome (EVS) 発作性前庭症候群 | めまいが「間欠的に」起こる。 症状がない時間帯がある。(重要!) | 1回あたりの発作の持続時間 (Duration) が鍵。 ・秒〜1分: BPPV ・数分〜数時間: 前庭性片頭痛, メニエール病, TIA, パニック発作 ・数時間〜数日: 前庭性片頭痛, メニエール病 | BPPV, 前庭性片頭痛, メニエール病, TIA, 心因性(不安関連など) |
Acute Vestibular Syndrome (AVS) 急性前庭症候群 | めまいが「急性に発症」し、「持続的に」続く(通常、数日〜数週間)。 嘔気嘔吐, 姿勢不安定, 眼振を伴う。 | 発症後の症状の経過 (Evolution) が重要。 多くは単相性の経過。 | 末梢性: 前庭神経炎, 内耳炎 中枢性: 脳卒中 (AVSの約25%は脳卒中![10]) |
表1: めまいの臨床症候群分類(TiTrATEアプローチに基づく)
Aさんの場合:「突然発症」し「3時間持続」していることから、AVS(急性前庭症候群)として考え、鑑別を進めます。この時点で、BPPVやTIA、メニエール病といった典型的なEVSの可能性は相対的に低くなります。
Triggers(誘因)から分かること
次に「Triggers(誘因)」、つまり症状が特定の動作や状況によって引き起こされるかを確認します。
Aさんの場合、「頭を動かすと増悪する」とのことですが、これはAVS(前庭神経炎や脳卒中)では非特異的によく見られる所見です。したがって、この情報だけではAVSの中枢性・末梢性の鑑別には役立ちません。 やはり、次の診察所見が重要になります。
Step 2: Red Flags を探す。 病歴と診察で危険を察知
AVSを疑ったら、次は中枢性疾患(脳卒中)を示唆する危険な兆候(Red Flags)がないか、系統的に確認します。
病歴での確認ポイント
以下の項目は、脳卒中(特に脳幹・小脳)の可能性を高めるため、注意深く問診します。
- 6Dsは?: 脳幹や小脳の機能障害を示唆する重要なサインです。一つでもあれば中枢性を強く疑います。
- 複視 (Diplopia)
- 構音障害 (Dysarthria)
- 嚥下障害 (Dysphagia)
- 発声障害 (Dysphonia)
- 測定障害 (Dysmetria)
- 変換運動障害 (Dysdiadochokinesis)
Aさん:なし
- 頭痛・頸部痛は?: 新規発症の激しい頭痛(特に後頭部痛)や頸部痛は、小脳出血や椎骨動脈解離を強く疑います。[12]
Aさん:なし。 - 聴力変化は?: 急性の片側性難聴は、内耳動脈(AICA)領域の脳梗塞を示唆します。
Aさん:なし。 - 血管危険因子は?: 高血圧、脂質異常症、喫煙歴あり。脳卒中のリスクは無視できません。[12]
Aさん:あり - その他: 最近の外傷や意識消失はない。
初期診察での確認ポイント
基本的な神経学的診察(脳神経、運動、感覚、小脳機能)で明らかな異常がないか確認します。
Aさんでは明らかな局所神経脱落所見は認めませんでした。
しかし、これらのRed Flagsがなくても脳卒中は否定できません。
AVSでは次のステップが極めて重要です。
Step 3: 神経耳科学的診察 – HINTS Plusで核心に迫る
AVSで眼振を認める場合、HINTS Plus検査は脳卒中と前庭神経炎を鑑別するための非常に有用なベッドサイドツールとされています。(ピットフォールと臨床上の適応に関する注意点は後述します!)
HINTS検査とは? その意義・適応・注意点
HINTSは、Head Impulse test、Nystagmus evaluation、Test of Skew の3つの眼球運動評価を組み合わせたものです。適応は「急性前庭症候群(AVS)で、かつ診察時に眼振がある患者さん」に限定されます。
適切に行えば、特に発症初期においてはMRI(DWI)よりも脳卒中の検出感度が高いとも報告されています(感度95-100%, 特異度85-95%程度)[13]。
しかし! これには「訓練を受けた検者が行う」という大前提があり、臨床現場では誤った使い方が散見され、救急医によるHINTSの診断精度は感度83%/特異度44%と低いというメタ解析結果もあります[14]。HINTSの結果は重要ですが、過信は禁物であり、他の所見と合わせて総合的に判断する必要があります。
何度も言いますが、『AVSの分類かつ診察時に眼振がある患者さん』に適応しないと、途端に感度・特異度ともに低下します!これ重要です!
AさんのHINTS Plus所見
AさんのHINTS Plusの結果をまとめると、以下のようになります。
(※HINTS Plusは、HINTSに聴力評価(Hearing)を加えたものです[18])
検査項目 | Aさんの所見 | 末梢性パターン | 中枢性パターン (危険!) |
---|---|---|---|
Head Impulse (HI) | 異常 (陽性) (左回旋時に修正サッケードあり) | 異常 (陽性) | 正常 (陰性) |
Nystagmus (N) | 一方向性 (右向き、注視で逆転しない) | 一方向性 (水平回旋混合が多い) | 方向交代性 または 純粋垂直性/回旋性 |
Test of Skew (TS) | 陰性 (垂直方向のずれなし) | 陰性 | 陽性 |
Hearing (Plus) | 異常なし (左右差なし) | 通常異常なし | 急性片側性難聴あり |
表2: AさんのHINTS Plus所見
HINTS Plusの解釈とピットフォール
Aさんの結果は、表の「末梢性パターン」と一致します。しかし、ここで「あ、末梢性だ、良かった」と安心してはいけません! これが非常に重要なピットフォールです。
- ピットフォール①:「正常Head Impulse=安全」ではない! AVSにおいては、正常なHIこそが中枢性を疑う最も重要な所見です。
- ピットフォール②:HINTSだけを信じない! 特にAICA梗塞は偽陰性がありえると心得る。
他の臨床所見(後述しますが、特に歩行!)との総合判断が必要です。専門家以外が行う場合の精度には限界があることを常に念頭に置き、慎重に評価しましょう[14, 22]。
さらに、最新の研究動向も踏まえておくことが重要です。
最新研究から見えるHINTSの光と影
少し脱線しますが、現時点で最新の文献も紹介させて頂きます。
2025年、Topluらが報告した前向き観察研究(Toplu ACO, Aslan IK, Akoglu EU, Ozturk TC. et al. The role of the HINTS exam, TriAGe+ score, and ABCD2 score in predicting stroke in acute vertigo patients in the ED. Am J Emerg Med. 2025 May;91:110-117. )では、急性めまい患者における脳卒中診断ツールとして、HINTS検査、Triage Plusスコア、ABCD2スコアの有用性を比較しています[1]。この研究のヘッドラインでは、『HINTS検査が感度100%、特異度86%』と非常に高い精度を示したと報告されました。
しかし、この「感度100%」という数字には少し懐疑的にならざるを得ません。 詳しくは原著を参照頂きたいのですが、この驚くべき感度はやはり前述のように、『眼振があり、かつ特定のパターンを示した患者さんのみを対象とした、非常に限定的な条件下での結果』であり、これを一般のER診療にそのまま当てはめるのは危険だと感じています。
さらに興味深い(そして少し憂慮すべき)点として、同研究内では、HINTS手技に関するトレーニングを受けた救急レジデントでさえ、実に75%のケースでHINTSを適応外(眼振がない患者など)に使用していたというデータも示されています[1]。
これは、いかにHINTSの正しい適応を守り、手技を習熟し、そして結果を慎重に解釈することが重要かを物語っています。
ちなみに、同研究ではTriage Plusスコア(めまい患者の脳卒中リスクを評価するために開発されたスコア)やABCD2スコア(主にTIAのリスク層別化スコア)の有用性も検討されましたが、HINTSと比較して精度は劣るという結果でした[1]。これらのスコアリングシステム単独での診断や除外診断は、現時点では推奨できないと私は考えています。
Step 4: 歩行評価 – 最後の砦を見逃すな!
さて、先程の患者さんの話に戻りましょう。
(適応を満たすことを再確認し、さらに熟練した医師による)HINTS Plusからは、末梢パターンを示唆されました。しかし、これで安心ではありません。必ず起立・歩行が可能かを確認します。 これは極めて重要なセーフティネットです。
- 結果: Aさんは、支えがあれば何とか起立できましたが、著しく左後方へ傾き、数歩進むのがやっとでした。一人で立っていることはできませんでした。
- 解釈: これが決定的なRed Flagです!
たとえHINTS Plusが末梢性を示唆していても、介助なしで歩行できないほどの重度の体幹失調は、中枢性(特に小脳)疾患を強く疑うべきです。 実際に、歩行不能は脳卒中を示唆する所見として高い特異度を持つことが複数の研究で示されています[18]。前庭神経炎でもふらつきますが、通常ここまでではありません[17]。
Step 5: 診断とアクションプラン – 臨床所見を統合する
今までの情報をまとめます。
- AVSの臨床像
- HINTS Plusは末梢性パターン
- しかし、歩行は不可能! (強い中枢性を示唆)
- 血管リスク因子あり
HINTS Plusと歩行評価が矛盾する場合、より重篤な疾患を除外するために、歩行不能というRed Flagを最優先します。
- 推定診断: 左小脳梗塞(PICA領域など)の可能性が高い。
- プラン:
- 緊急頭部MRI(DWI含む)オーダー
- 神経内科(・脳神経外科)コンサルト
- 入院での経過観察
MRIに関する私見とピットフォール、そして患者さんへの説明
正直なところ、私自身は、初発のめまい患者さんで、特に血管リスクがある場合は、神経所見が乏しくてもMRI撮影の閾値をかなり低くしています。指導医によっては「神経所見をとってこそだ!」とお叱りを受けるかもしれません。でも実際に、神経内科医が診察して「末梢性だろう」と判断された方が、改善せずに結局MRIを撮ったら小脳梗塞だった、という経験をすると、どうしても慎重にならざるを得ません。
しかし、MRIも万能ではありません。 特に発症早期(24~48時間以内)のMRI(DWI)は、後方循環系脳卒中の10~20%を見逃す(偽陰性)可能性があるという報告があります[19, 20]。最新の研究に関する議論の中でも、このMRI(DWI)の偽陰性率は依然として課題であり、特に小さな梗塞や発症超早期ではさらに見逃しリスクが高まる可能性が指摘されています[19]。CTの感度はさらに低く、16%程度とも言われています[15]。これは絶対に忘れてはいけないピットフォールです。
だからこそ、HINTSを含めた神経診察のスキルは常に磨き続け、MRIの結果と合わせて総合的に判断し、自身の診断スキルを検証(答え合わせ)していくことが重要だと考えています。最新の文献を通して紹介した通り、決してHINTS単独に頼りすぎるのも考えものです。結局のところ現状のエビデンスでは、完璧なスコアリングや検査は存在しないのだということを認識し、総合的に考えていくしかないのです。
そして、診断が不確かな場合や、MRIがすぐに撮れない場合、あるいはMRIで異常がなくても臨床的に疑いが残る場合に大切なのが、患者さんやご家族への説明です。「今の診察や検査ではハッキリしませんが、怖い病気の可能性も完全には否定できません。心配なので、もう少し慎重に経過を見させてください」と、正直に伝え、不安に寄り添う姿勢を示すことが、信頼関係の上でも、患者さんの安全を守る上でも、何よりも大事だと感じています。
Step 6: この症例からの学びと実践Tips:「めまい診療」
今回の症例を通して、めまい診療の重要なポイントとピットフォールが見えてきたのではないでしょうか? 最後に、明日からの臨床に活かせるTipsとしてまとめます。
- Timing & Triggersが命!
症状の質より時間経過と誘因を詳細に聴取し、AVS/EVSのあたりをつけよう (TiTrATE)。 - HINTS Plusは有用だが決して過信禁物!
AVS+眼振があった場合に限り適応を厳守する。「感度100%」といった報告には惑わされない。
非常に限定的な結果であり、鵜呑みにせず、手技の習熟と慎重な解釈が不可欠。 - 歩行評価は最後の砦!
「立てない・歩けない」は超危険サイン!中枢性を疑い、帰宅させてはならない! - Red Flagsに敏感に!
6Ds 、重度頭頸部痛、急性難聴、血管リスク因子…一つでもあれば立ち止まること。 - 初期画像陰性≠安全宣言!
特に発症早期DWIは偽陰性あり(10-20%、後方循環系)。
臨床経過と所見を重視。迷ったら再評価・コンサルト! - リスク層別化スコアに頼りすぎない!
HINTS然りTriage PlusやABCD2といったスコアも現状のエビデンスでは、めまい診療における単独での有用性は限定的。あくまで補助的な情報と捉え、臨床判断の根幹は病歴と診察に置くべき。
おわりに:自信を持って「めまい」に向き合うために
急性めまい診療は、確かに奥が深く、プレッシャーも伴います。しかし、今回ご紹介したような体系的なアプローチと、いくつかの重要なピットフォールを理解しておけば、多くのケースで安全かつ的確に対応できるようになります。
私も最初は(そして今でも)手探りの部分が多々あります。知識だけでなく、診察手技は実際に経験を積むことが何より大切です。そして、常に最新の知見に目を向け、自身の知識やスキルをアップデートし続ける謙虚な姿勢も忘れてはならないと感じています。
さて、この記事もそろそろ結びとなります。今回の内容が初期研修医や救急に携わるあらゆる先生方にとって、明日からのめまい診療への不安を少しでも和らげ、自信を持って患者さんに向き合うための一助となれば幸いです。
今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。
参考文献
- Toplu ACO, Aslan IK, Akoglu EU, Ozturk TC. et al. The role of the HINTS exam, TriAGe+ score, and ABCD2 score in predicting stroke in acute vertigo patients in the ED. Am J Emerg Med. 2025 May;91:110-117. (PMID: 40023138)
⇒『救急外来での急性めまい患者におけるHINTS, TriAGe+, ABCD2スコアの脳卒中予測能を比較検討した最新の研究。HINTSの高感度報告の解釈には注意が必要だと考えます。』 - Newman-Toker DE, Hsieh YH, Camargo CA Jr, et al. Spectrum of dizziness visits to US emergency departments: cross-sectional analysis from a nationally representative sample. Mayo Clin Proc. 2008 Jul;83(7):765-75. (PMID: 18613993)
⇒『ER受診理由としてのめまいの頻度(約2-5%)と診断の多様性に関する基礎データ。めまいがいかにコモンな主訴であるかを示しています。』 - Newman-Toker DE, Cannon LM, Stofferahn ME, et al. Imprecision in patient reports of dizziness symptom quality: a cross-sectional study conducted in an acute care setting. Mayo Clin Proc. 2007 Nov;82(11):1329-40. (PMID: 17976352)
⇒『患者さんによるめまい症状の質的表現(ぐるぐる、ふわふわ等)は曖昧で変化しやすく、診断の決め手にはなりにくいことを示した研究。問診の焦点をどこに置くべきか考える上で重要です。』 - Kerber KA, Brown DL, Lisabeth LD, et al. Stroke among patients with dizziness, vertigo, and imbalance in the emergency department: a population-based study. Stroke. 2006 Oct;37(10):2484-7. (PMID: 16946161)
⇒『ER受診めまい患者における脳卒中の頻度、および脳卒中が見逃されやすいリスク因子(神経所見が乏しい場合など)に関する研究。見逃しのリスクを常に意識させられます。』 - Edlow JA, Newman-Toker DE, Savitz SI. Diagnosis and initial management of cerebellar infarction. Lancet Neurol. 2008 Oct;7(10):951-64. (PMID: 18848314)
⇒『小脳梗塞の診断と初期管理に関する重要なレビュー。神経学的所見が乏しいケースや誤診の多さにも言及しており、ER医として必読と感じます。』 - 徳竹雅之. 週刊 医学界新聞 第3513号 めまい診療を Timing and Trigger でスッキリ整理! Dangerous diagnosis を見逃すな. 2023.
⇒『ER現場視点でのTiming/Triggerの重要性、HINTS・画像検査のピットフォール、歩行評価の意義などを解説した実践的な記事。TiTrATEアプローチを日本で学ぶ上で参考になります。』 - Newman-Toker DE, Dy FJ, Stanton VA, et al. How often is dizziness from primary cardiovascular disease true vertigo? A systematic review. J Gen Intern Med. 2008 Dec;23(12):2087-94. (PMID: 18843523)
⇒『心血管系疾患によるめまいでも”vertigo”と表現されることがあり、症状の質による分類の限界を示唆する研究。』 - Newman-Toker DE, Edlow JA. TiTrATE: A Novel, Evidence-Based Approach to Diagnosing Acute Dizziness and Vertigo. Neurol Clin. 2015 Aug;33(3):577-99, viii. (PMID: 26231273)
⇒『めまい診断の新しい標準、TiTrATEアプローチ(Timing, Triggers, Targeted Exam)を提唱した重要論文。めまい診療の考え方の根幹です。』 - Edlow JA, Gurley KL, Newman-Toker DE. A New Diagnostic Approach to the Adult Patient with Acute Dizziness. J Emerg Med. 2018 Apr;54(4):469-483. (PMID: 29331501)
⇒『TiTrATEとベッドサイド診察を重視する新しい診断アプローチを解説したレビュー。実践的な流れが分かります。』 - Lee H, Sohn SI, Cho YW, et al. Cerebellar infarction presenting isolated vertigo: frequency and vascular topographical patterns. Neurology. 2006 Oct 10;67(7):1178-83. (PMID: 17030749)
⇒『小脳梗塞が孤立性めまい(他の神経所見なし)で発症しうること、およびその頻度や血管支配パターンに関する重要な報告。AVS=脳卒中の可能性を念頭に置く根拠の一つ。』 - Dizziness: Approach to Evaluation and Management – AAFP. Am Fam Physician. 2017 Feb 1;95(3):154-162.
⇒『家庭医向けのめまい診療アプローチ。症状の質よりTiming/Triggerを重視する点がTiTrATEと共通しており、BPPVや前庭神経炎の管理についても簡潔にまとめられています。』 - Approach to dizziness in the emergency department – PMC. CJEM. 2016 Sep; 18(5): 381–386. (PMID: 27098796)
⇒『ERにおけるめまいアプローチ。Red Flags(特に頭頸部痛、血管リスクなど)の重要性を指摘。』 - Kattah JC, Talkad AV, Wang DZ, Hsieh YH, Newman-Toker DE. HINTS to diagnose stroke in the acute vestibular syndrome: three-step bedside oculomotor examination more sensitive than early MRI DWI. Stroke. 2009 Nov;40(11):3504-10. (PMID: 19762709)
⇒『AVSにおける脳卒中診断のためのHINTS検査の有用性(専門医施行時)を示した原著論文の一つ。初期DWIより高感度と報告されましたが、その後の研究で解釈には注意が必要とされています。』 - Ohle R, et al. Can Emergency Physicians Accurately Rule Out a Central Cause of Vertigo Using the HINTS Exam? A Systematic Review and Meta-analysis. Acad Emerg Med. 2020 Nov;27(11):1188-1197. (PMID: 32167642)
⇒『救急医によるHINTS施行時の診断精度に関する系統的レビュー・メタ解析。専門家以外では精度が低い可能性を指摘しており、HINTSを過信しない根拠となります。』 - Chalela JA, et al. Magnetic resonance imaging and computed tomography in emergency assessment of patients with suspected acute stroke: a prospective comparison. Lancet. 2007 Jan 27;369(9558):293-8. (PMID: 17258669)
⇒『急性期脳卒中診断におけるMRIとCTの感度比較。MRIが優れるものの、CTの感度は非常に低い(16%)ことを示しており、CT陰性=安全ではないことを示唆します。』 - Bhattacharyya N, Gubbels SP, Schwartz SR, et al. Clinical Practice Guideline: Benign Paroxysmal Positional Vertigo (Update). Otolaryngol Head Neck Surg. 2017 Mar;156(3_suppl):S1-S47. (PMID: 28248609)
⇒『BPPV診断・治療(Dix-Hallpike法、Epley法など)に関する主要な臨床診療ガイドライン。末梢性めまいの代表であるBPPVの標準的対応を知る上で必須。』 - Strupp M, Brandt T. Vestibular neuritis. Semin Neurol. 2009 Jul;29(5):509-19. (PMID: 19790048)
⇒『前庭神経炎の臨床像、診断、管理(早期リハビリの重要性含む)に関するレビュー。通常は歩行可能である点が、小脳梗塞との鑑別で重要になります。』 - Choi JH, et al. HINTS Plus in Refining the Diagnosis of Vertigo-Associated Stroke. J Clin Neurol. 2018 Oct;14(4):596-602. (PMID: 30289047)
⇒『HINTSに聴力評価を加えたHINTS Plusの有用性について述べた研究例。歩行不能の重要性にも言及しています。』 - Saber Tehrani AS, et al. Small strokes causing severe vertigo: frequency of false-negative MRIs and nonlacunar mechanisms. Neurology. 2014 Jul 8;83(2):169-73. (PMID: 24920847)
⇒『小さな脳梗塞でも重度めまいを起こしうること、特にそのようなケースで初期DWI偽陰性の頻度が高い(50%以上との報告も!)ことを示した衝撃的な報告。MRI陰性でも油断禁物です。』 - Tarnutzer AA, Berkowitz AL, Robinson KA, Hsieh YH, Newman-Toker DE. Does my dizzy patient have a stroke? A systematic review of bedside diagnosis in acute vestibular syndrome. CMAJ. 2011 Jun 14;183(9):E571-92. (PMID: 21576300)
⇒『AVSにおけるベッドサイド診断(HINTS等)の有用性に関する系統的レビュー。DWI偽陰性についても言及されており、臨床判断の重要性を強調しています。』 - Navi BB, et al. Rate and predictors of serious neurologic causes of dizziness in the emergency department. Mayo Clin Proc. 2012 Nov;87(11):1080-8. (PMID: 23063099)
⇒『ER受診めまい患者における重篤な神経疾患(脳卒中など)の頻度と予測因子に関する研究。決して稀ではないことを示しています。』 - Gerlier C, et al. The HINTS examination and STANDING algorithm in acute vestibular syndrome: A systematic review and meta-analysis involving frontline point-of-care emergency physicians. Acad Emerg Med. 2022 Jul;29(7):854-870. (PMID: 35876220)
⇒『救急医によるHINTSと、それを含むSTANDINGアルゴリズムの診断精度に関する系統的レビュー・メタ解析。Ohleらの報告[14]と同様に、専門家以外での適用には限界があることを示唆。』
免責事項:
このブログ記事は、私の臨床経験と各種医学情報に基づいていますが、一般的な情報提供を目的としており、個々の患者さんの状態に合わせた医学的なアドバイスを提供するものではありません。実際の診療においては、患者さんの状態や合併症などを総合的に評価し、必ず担当医の判断と責任において治療方針を決定してください。
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