「血糖が180 mg/dLくらいなら、DKAではなさそう」
救急外来やICUで、そう考えてしまう場面は少なくありません。
しかし、SGLT2阻害薬を使っている患者さん、食事が取れていない患者さん、感染や周術期で体調を崩している患者さんでは、血糖がそれほど高くなくても糖尿病性ケトアシドーシスを起こすことがあります。
これが、euDKA、つまり euglycemic diabetic ketoacidosis です。
日本語では、正常血糖糖尿病性ケトアシドーシス、あるいは血糖正常DKAのように説明されることがあります。
この記事では、救急・ICUでeuDKAを見逃さないために、診断基準、疑う場面、SGLT2阻害薬との関係、初期治療の考え方を整理します。
糖尿病と心不全のある患者さんが、嘔気、嘔吐、倦怠感、腹部不快感で救急外来を受診しました。
血糖は180 mg/dL前後。そこまで高くありません。
でも、呼吸数は少し多い。口腔内は乾燥している。なんとなく具合が悪そう。
血液ガスを取ると、pH低下、HCO₃⁻低下、アニオンギャップ開大があります。
このとき、「血糖が高くないからDKAではない」と判断してしまうと、euDKAを見逃す可能性があります。
euDKAは、血糖が正常〜軽度上昇にとどまるため、通常のDKAより見逃されやすい病態です。
救急・ICUでは、SGLT2阻害薬、絶食、感染、周術期、インスリン不足などを背景に、原因不明のアニオンギャップ開大性代謝性アシドーシスを見たら、血糖値だけで安心せず、ケトン体を確認することが重要です。
治療の基本は、補液、電解質補正、インスリン、そして早期からの糖投与です。
ポイントは、血糖を下げるためではなく、ケトン産生を止めるためにインスリンを使うという視点です。
euDKAとは?血糖正常でも起こるDKA
euDKAは、血糖が正常または軽度上昇にとどまる糖尿病性ケトアシドーシスです。
通常のDKAでは、高血糖、ケトーシス、代謝性アシドーシスがそろいます。
一方でeuDKAでは、血糖が250 mg/dL未満にとどまることがあります。
そのため、救急外来やICUでは、「血糖が高くない」という一点で、DKAの可能性が頭から外れてしまうことがあります。
euDKAを疑う入口は、血糖値ではありません。
原因不明のアニオンギャップ開大性代謝性アシドーシスを見たときに、薬剤歴、食事摂取状況、ケトン体を確認することが重要です。
なぜeuDKAは見逃されやすいのか
euDKAが見逃されやすい理由は、かなりシンプルです。
私たちはDKAを考えるとき、どうしても「高血糖」を手がかりにしがちです。
しかしeuDKAでは、その手がかりが弱くなります。
患者さんは、嘔気、嘔吐、腹痛、倦怠感、頻呼吸、脱水などで受診します。
これらの症状は、胃腸炎、脱水、感染症、敗血症、アルコール性ケトアシドーシス、飢餓性ケトーシスなどにも見えます。
さらに血糖がそれほど高くないと、「DKAらしくない」と感じてしまいます。
この認知のズレが、euDKAの診断を遅らせます。
血糖が高くないことが、むしろ落とし穴になる
DKAは「血糖が高い病気」として覚えられがちです。
もちろん典型的なDKAでは高血糖が重要な手がかりになります。
ただし、SGLT2阻害薬を使っている患者さんでは、尿糖排泄によって血糖が上がりにくくなります。
その一方で、相対的なインスリン不足、グルカゴン優位、脱水、絶食、感染などが重なると、ケトン産生は進みます。
つまり、血糖はそこまで高くないのに、体の中ではケトアシドーシスが進んでいるという状況が起こります。
euDKAの診断基準:血糖だけで判断しない
euDKAでは、血糖が正常〜軽度上昇、しばしば250 mg/dL未満であっても、代謝性アシドーシスとケトーシスを伴えばDKAとして考える必要があります。
実際の診断では、血糖値だけではなく、pH、HCO₃⁻、アニオンギャップ、βヒドロキシ酪酸、糖尿病の既往、SGLT2阻害薬の使用状況を組み合わせて判断します。
- 血糖:正常〜軽度上昇、しばしば250 mg/dL未満
- pH低下
- HCO₃⁻低下
- アニオンギャップ開大
- βヒドロキシ酪酸上昇
- 糖尿病の既往、または糖尿病を示唆する背景
ここで重要なのは、血糖が高くないことはDKAを否定する根拠にならないという点です。
むしろ、血糖が高くないからこそ見逃されやすい。これがeuDKAの臨床的な難しさです。
「血糖が高くないから軽症」とは限りません。
見るべきなのは、血糖値だけではなく、pH、HCO₃⁻、アニオンギャップ、βヒドロキシ酪酸、循環、意識、腎機能、カリウムです。
SGLT2阻害薬でなぜeuDKAが起こるのか
SGLT2阻害薬では、腎臓から尿中に糖を排泄することで血糖が下がりやすくなります。
その結果、血糖だけを見ると重症に見えにくい一方で、インスリン分泌は相対的に低下し、グルカゴン優位となり、脂肪分解とケトン産生が進みやすくなります。
さらに、脱水、食事摂取不良、感染、周術期、インスリン減量などが重なると、血糖が正常〜軽度上昇のままケトアシドーシスが進むことがあります。
つまり、SGLT2阻害薬関連のeuDKAでは、血糖はそれほど高くないのに、体内ではケトン産生とアシドーシスが進むというズレが起こります。
薬剤歴では商品名でも確認する
実臨床では、患者さんが一般名を覚えていないことも多いです。
そのため、「SGLT2阻害薬を飲んでいますか?」だけでなく、商品名も含めて確認した方が拾いやすくなります。
代表的には、以下のような薬剤があります。
- エンパグリフロジン:ジャディアンス
- ダパグリフロジン:フォシーガ
- カナグリフロジン:カナグル
- イプラグリフロジン:スーグラ
- ルセオグリフロジン:ルセフィ
- トホグリフロジン:デベルザ、アプルウェイ
また、配合剤として処方されている場合もあります。
薬剤名がはっきりしないときは、お薬手帳、薬剤情報提供書、家族からの情報、院内薬剤師への確認が重要です。
euDKAを疑う場面
euDKAを疑うべきなのは、「糖尿病患者で具合が悪いけれど、血糖が高くない」場面だけではありません。
特に、以下の背景が重なるときは注意が必要です。
SGLT2阻害薬を使っている
近年、SGLT2阻害薬は糖尿病だけでなく、心不全や慢性腎臓病でも使われる機会が増えています。
そのため、薬剤歴を見るときは「糖尿病薬があるか」だけでなく、SGLT2阻害薬が入っていないかを具体的に確認する必要があります。
特に、嘔吐、食事摂取不良、脱水、感染、周術期が重なっている場合は、血糖が高くなくてもeuDKAを考えます。
食事が取れていない
嘔吐、食欲不振、絶食、周術期、低糖質食などで糖質摂取が不足すると、体は脂肪分解とケトン産生に傾きやすくなります。
そこにSGLT2阻害薬やインスリン不足が重なると、血糖が高くないままケトアシドーシスが進むことがあります。
感染・手術・重症疾患がある
感染、手術、外傷、心筋梗塞、脳卒中、重症疾患などのストレスでは、カテコラミンやコルチゾールなどのストレスホルモンが増えます。
これによりインスリン作用は相対的に不足し、脂肪分解とケトン産生が進みやすくなります。
インスリンが減っている、または中断されている
インスリンの中断や減量も重要です。
血糖が高くないからといって、インスリンが足りているとは限りません。
むしろ、血糖が高くないことでインスリン不足に気づきにくくなる点が、euDKAの難しさです。
euDKAを疑ったら何を検査するか
euDKAを疑ったら、血糖だけで判断せず、酸塩基、ケトン、電解質、誘因をまとめて評価します。
- 血液ガスを見る
pH、HCO₃⁻、PaCO₂、乳酸を確認します。静脈血ガスでも初期評価として十分役立つ場面が多いです。 - アニオンギャップを計算する
Na − Cl − HCO₃⁻で計算し、乳酸だけで説明できない開大がないかを見ます。 - βヒドロキシ酪酸を確認する
可能であれば血中βヒドロキシ酪酸を測定します。尿ケトンだけに頼らない方が安全です。 - 電解質と腎機能を見る
特にカリウムは治療方針に直結します。初期値が正常でも、インスリンと補液で下がる前提で見ます。 - 誘因を探す
SGLT2阻害薬、絶食、感染、周術期、インスリン中断、飲酒、膵炎、心筋虚血などを確認します。
尿ケトンだけで安心しない
尿ケトンは測定しやすく、スクリーニングとして役立つことがあります。
ただし、DKAで重要なケトン体であるβヒドロキシ酪酸を直接反映しにくいという限界があります。
また、治療後も尿ケトンが残ることがあり、改善判定には使いにくい場面があります。
そのため、可能であれば血中βヒドロキシ酪酸を確認する方が、診断にも経過観察にも有用です。
euDKAの治療:補液・カリウム・インスリン・糖投与
euDKAの治療は、通常のDKAと同じく、補液、電解質補正、インスリン投与、誘因治療が基本です。
ただし、euDKAでは血糖が正常〜軽度上昇にとどまるため、通常のDKAよりも早い段階で糖投与が必要になることがあります。
ここが、現場で迷いやすいところです。
まずSGLT2阻害薬を中止する
SGLT2阻害薬が原因または関与している可能性がある場合は、急性期には中止します。
内服継続の可否や再開時期については、病態が落ち着いたあとに、糖尿病内科、循環器内科、腎臓内科などと相談して判断します。
補液で循環と脱水を立て直す
DKAでは体液量が不足していることが多く、補液は初期対応の柱です。
ただし、心不全や慢性腎臓病がある患者さんでは、補液量を機械的に決めるのではなく、循環、尿量、肺うっ血、腎機能を見ながら調整する必要があります。
カリウムを確認してからインスリンを考える
インスリンを開始すると、カリウムは細胞内へ移動し、血清カリウムは低下します。
初期のカリウム値が正常または高値でも、体内の総カリウム量は不足していることがあります。
そのため、インスリン投与前にカリウムを確認し、低カリウムがある場合は補正を優先します。
インスリンはケトン産生を止めるために使う
euDKAで特に大切なのは、インスリンの目的を誤解しないことです。
血糖が高くないと、「インスリンは不要では?」と感じるかもしれません。
しかしDKA治療におけるインスリンの重要な役割は、単に血糖を下げることではなく、脂肪分解とケトン産生を止めることです。
そのため、euDKAでもインスリンは治療の中心になります。
糖を入れながらインスリンを続ける
euDKAでは、血糖が高くない状態からインスリンを使うため、低血糖を避けるために糖投与が必要になります。
つまり、糖を入れながらインスリンを続けるという発想が重要です。
これは一見矛盾して見えるかもしれません。
しかし目的は、血糖を下げることではなく、ケトン産生を止め、アシドーシスを改善させることです。
euDKAでは、「血糖が低いからインスリンを止める」ではなく、「ケトンを止めるためにインスリンを続ける。そのために糖を入れる」と考えると理解しやすくなります。
ここまで読むと、euDKAでは「糖を入れながらインスリンを続ける」ことが重要だと分かります。
ただ、実際の現場ではここからが難しいところです。
血糖が180 mg/dL前後の患者さんに、どのタイミングでブドウ糖を入れ、インスリン(たとえばHuR)の投与量をどう考え、カリウムやアニオンギャップを見ながらどう調整するのか。
実践編noteでは、架空症例を使って、この治療設計の部分を時間経過に沿って具体的に整理します。

治療中に見るべきもの
治療中は、血糖だけを追っても不十分です。
むしろ、血糖が改善しているように見えても、アシドーシスやケトン体が残っていれば、病態はまだ解決していません。
経過を見るときは、以下をセットで確認します。
- pHとHCO₃⁻
代謝性アシドーシスが改善しているかを見ます。 - アニオンギャップ
ギャップが閉じているかを確認します。 - βヒドロキシ酪酸
ケトン産生が止まってきているかを見ます。 - カリウム
インスリン治療中に低カリウムへ傾くことを前提に確認します。 - 循環・尿量・意識
数字だけでなく、患者さん全体の改善を見ます。
SGLT2阻害薬の休薬と予防
SGLT2阻害薬は、糖尿病だけでなく、心不全や慢性腎臓病の治療でも重要な薬剤になっています。
一方で、絶食、脱水、急性疾患、周術期などではeuDKAのリスクが上がるため、休薬の判断が必要になることがあります。
予定手術では、SGLT2阻害薬を手術前に数日間中止することが推奨されています。
多くのSGLT2阻害薬では手術3日前からの中止が目安とされますが、薬剤や施設方針、患者背景によって対応が異なることがあります。
また、急性疾患、食事摂取不良、嘔吐、脱水がある場合には、一時中止を考慮します。
再開については、食事摂取が安定し、脱水や感染などのリスク因子が解消してから慎重に判断します。
SGLT2阻害薬を「良い薬だから」と漫然と再開するのは危険です。
euDKAを起こした症例では、再開するかどうか、再開するならどの条件で行うかを、専門科と相談して判断する必要があります。
現場で覚えておきたい3つのポイント
- 血糖が高くなくてもDKAはありうる
SGLT2阻害薬、絶食、感染、周術期、インスリン不足があれば特に注意します。 - 原因不明のAG開大性代謝性アシドーシスではケトン体を見る
乳酸だけで説明できないときは、βヒドロキシ酪酸を確認します。 - 治療は「糖を入れながらインスリンを続ける」発想が重要
血糖を下げるためではなく、ケトン産生を止めるためにインスリンを使います。
euDKAで大事なのは、「血糖が高くないから軽症」と考えないことです。
むしろ、血糖が高くないことで診断が遅れるからこそ危ない。
血糖よりも、血ガス、アニオンギャップ、ケトン体、薬剤歴、食事摂取状況をつなげて考える病態だと思います。
euDKAを現場で見逃さないためには、血液ガス、酸塩基平衡、救急外来での代謝異常の見方をつなげて学ぶことが重要です。
血液ガスを体系的に学びたい方は、以下の記事で初学者・研修医・救急ICUローテーター向けの教材を整理しています。
※一部リンクにはアフィリエイトリンクを含む場合があります。

euDKAに関するよくある疑問
euDKAでは血糖はどのくらいですか?
euDKAでは、血糖が正常〜軽度上昇にとどまり、250 mg/dL未満であることがあります。
ただし、血糖値だけで判断せず、代謝性アシドーシス、アニオンギャップ、ケトン体、臨床背景を合わせて評価します。
血糖が正常ならDKAではないと考えてよいですか?
いいえ。
SGLT2阻害薬、絶食、感染、周術期、インスリン不足などがある場合、血糖が正常でもDKAを起こすことがあります。
血糖が高くないことは、DKAを否定する理由にはなりません。
euDKAではなぜ糖を入れながらインスリンを使うのですか?
euDKAのインスリンは、血糖を下げるためだけではなく、ケトン産生を止めるために使います。
血糖が高くない状態でインスリンを続けるため、低血糖を避ける目的で糖投与を併用します。
SGLT2阻害薬はいつ中止しますか?
急性疾患、絶食、嘔吐、脱水、周術期などでは一時中止を検討します。
予定手術では手術前に数日間中止することが推奨されています。
再開は、食事摂取や全身状態が安定し、ケトアシドーシスのリスク因子が解消してから慎重に判断します。
尿ケトンが陰性ならeuDKAは否定できますか?
尿ケトンだけでeuDKAを否定するのは危険です。
尿ケトンは測定しやすい一方で、βヒドロキシ酪酸を直接評価しにくいという限界があります。
疑わしい場合は、可能であれば血中βヒドロキシ酪酸を確認します。
まとめ
euDKAは、血糖が正常または軽度上昇にとどまるため、通常のDKAより見逃されやすい病態です。
SGLT2阻害薬、絶食、感染、周術期、インスリン不足などを背景に、原因不明のアニオンギャップ開大性代謝性アシドーシスを見たら、血糖値だけで安心せず、ケトン体を確認することが重要です。
治療では、補液、電解質補正、インスリン、糖投与を組み合わせて、ケトン産生を止めにいく視点が必要です。
特にeuDKAでは、血糖が正常でも、糖を入れながらインスリンを続ける場面があります。
「血糖を下げる治療」ではなく、「ケトアシドーシスを止める治療」として理解すると、初期対応の考え方が整理しやすくなります。
実践編noteでは、血糖が高くない患者でeuDKAを疑った後に、実際にどう治療を組み立てるかを症例ベースで解説します。
血糖が180 mg/dL前後の状況で、インスリン投与量をどう考えるか。低血糖を避けながらブドウ糖をどう併用するか。カリウム、アニオンギャップ、βヒドロキシ酪酸を見ながら、治療をどう調整するか。
本記事では触れきれなかった、補液・ブドウ糖・インスリン・カリウム管理、皮下注移行、退院指導まで踏み込みんで解説します。
実践編noteは公開後にリンクします。
参考文献
- Umpierrez GE, et al. Hyperglycemic Crises in Adults With Diabetes: A Consensus Report. Diabetes Care. 2024.
- American Diabetes Association Professional Practice Committee. Standards of Care in Diabetes—2026.
- Long B, Lentz S, Koyfman A, Gottlieb M. Euglycemic Diabetic Ketoacidosis: Etiologies, Evaluation, and Management. Am J Emerg Med. 2021.
- Veauthier B, Levy-Grau B. Diabetic Ketoacidosis: Evaluation and Treatment. American Family Physician. 2024.
- Davies MJ, et al. Management of Hyperglycemia in Type 2 Diabetes, 2022. ADA/EASD Consensus Report. Diabetes Care. 2022.
が、背後にうっすらと見える救急室の背景(モニターの波形や医療.jpg)

コメント