肺塞栓症(PE)を見逃さない診断戦略|Wells・PERC・Dダイマー・CTPAの使い分け

ICU・ER実践ノート

救急外来で、胸痛や息切れを訴える患者さんを診る。

胸部X線は大きな異常なし。心電図も典型的なST上昇ではない。SpO₂もそこまで悪くない。けれど、頻脈があり、どこか引っかかる。

この「なんとなく変」を放置すると見逃しうる疾患のひとつが、肺塞栓症(pulmonary embolism:PE)です。

肺塞栓症の診断で難しいのは、知識がないことではありません。Wellsスコア、PERC、Dダイマー、年齢調整Dダイマー、YEARS、CTPAなど、検査やスコア自体は多くの人が一度は聞いたことがあります。

問題は、それらをどの順番で使うかです。

PE診断では、Dダイマーを出す前に勝負が始まっています。

今日の臨床シーン

40代女性。数時間前からの胸痛と軽い息切れで救急外来を受診。SpO₂ 96%、血圧は保たれているが、脈拍は110/分。胸部X線に明らかな肺炎や気胸はなく、心電図も決め手に欠ける。

「Dダイマーを出すべきか」「CTまで行くべきか」「帰宅でよいのか」――この迷いの中に、PE診断の本質があります。

この記事の結論

肺塞栓症を見逃さないために大切なのは、いきなりDダイマーを出すことでも、全例でCTを撮ることでもありません。

重要なのは、疑う入口 → 血行動態 → 検査前確率 → PERC/Dダイマー → CTPAまたは代替検査 → 重症度評価という順番を崩さないことです。

  1. まず血行動態を見る
    ショック、持続低血圧、心停止、失神、右心負荷があれば、高リスクPEとして診断と治療を並行して考える。
  2. 安定例では検査前確率を置く
    Wellsスコアや臨床判断で、「PEがどれくらいありそうか」を言語化する。
  3. PERCはかなり低リスクで使う
    PEの可能性が低い患者で、Dダイマーすら出さずに済ませるための道具として使う。
  4. Dダイマーは除外検査として使う
    低〜中等度リスクで陰性ならPEを否定しやすい。一方、陽性はPE診断ではない。
  5. 除外できなければCTPAへ進む
    PE likely、Dダイマー陽性、YEARS/PEGeDで除外不能、または臨床的に否定できない場合は画像診断を考える。
  6. 診断後は重症度評価へ進む
    PEは「ある/ない」だけでなく、「どれくらい危ないPEか」を評価する。

なぜ肺塞栓症は見逃されやすいのか

肺塞栓症は、教科書的には「突然の呼吸困難」「胸痛」「頻脈」「低酸素」などで疑う疾患です。

しかし実際の救急外来では、典型例ばかりではありません。

胸痛だけ、軽い息切れだけ、失神だけ、発熱っぽく見える、ACSっぽく見える、肺炎っぽく見える。あるいは、なんとなく元気がないだけのこともあります。

さらに厄介なのは、初期検査が安心材料に見えてしまうことです。

  • 胸部X線がきれいだから大丈夫
  • SpO₂が保たれているから大丈夫
  • 心電図が非特異的だから大丈夫
  • Dダイマーが少し高いだけだから大丈夫
  • Dダイマーが陰性だから、どんな状況でも大丈夫

このような判断は、いずれも危険になりえます。

POINT

PE診断で危ないのは、「PEを知らないこと」ではありません。

検査前確率を置かないまま、DダイマーやCTの結果だけで判断してしまうことです。

肺塞栓症診断アルゴリズム:まず全体像を押さえる

PEを見逃さないためには、個々のスコアを暗記するよりも、診断の順番を崩さないことが重要です。

救急外来では、以下のように考えると整理しやすくなります。

  1. PEを疑う入口を持つ
    胸痛、呼吸困難、失神、頻脈、低酸素、喀血、DVT症状、悪性腫瘍、術後、長期臥床、エストロゲン製剤、妊娠・産褥などを確認する。
  2. 血行動態で分ける
    ショック、持続低血圧、心停止、原因不明の失神、右心負荷があれば、高リスクPEとして診断と治療を並行する。
  3. 安定例では検査前確率を置く
    Wellsスコア、改訂Genevaスコア、臨床的ゲシュタルトを用いて、PEがどれくらいありそうかを見積もる。
  4. かなり低リスクならPERCを考える
    PERC陰性なら、Dダイマーすら出さずにPEを除外できる可能性を考える。
  5. 低〜中等度リスクならDダイマーを使う
    陰性ならPEを除外方向。陽性ならCTPAなど画像診断へ進む。
  6. 高リスクならDダイマーで粘らない
    PE likelyまたは高い検査前確率では、原則としてCTPA、またはCT困難例では代替検査を考える。
  7. 診断後は重症度評価へ進む
    血行動態、右心負荷、トロポニン/BNP、PESI/sPESIなどで治療方針を決める。
この記事で一番伝えたいこと

PE診断の本質は、DダイマーでもCTでもありません。

「この患者の検査前確率はどれくらいか」を置いたうえで、PERC、Dダイマー、CTPAを使い分けることです。

ステップ1:まず血行動態が安定しているかを見る

PEを疑ったとき、最初に考えるべきことは「Dダイマーを出すか」ではありません。

まず見るべきは、患者が安定しているかどうかです。

不安定なら、高リスクPEとして動く

以下のような患者では、安定例の診断アルゴリズムとは別の動きになります。

  • 心停止、PEA
  • ショック
  • 持続する低血圧
  • 原因不明の失神
  • 急速に進行する低酸素
  • 強い右心負荷が疑われる

この状況では、高リスクPEを念頭に、蘇生、酸素化・循環管理、ベッドサイド心エコー、下肢静脈エコー、抗凝固、血栓溶解療法やカテーテル治療の相談を同時並行で考えます。

CTPAは重要な検査ですが、ショック患者では「CTに行けるかどうか」そのものが臨床判断になります。

循環が崩れている患者で、CT室まで安全に移動できるのか。造影CTを待っている間に状態がさらに悪化しないか。ここを考えなければなりません。

ここに注意!

不安定なPE疑いでは、「CTで確定してから考える」だけでは遅れることがあります。

一方で、PE以外のショック原因も並行して評価する必要があります。PEだけに思考を固定せず、ACS、大動脈疾患、緊張性気胸、敗血症、出血性ショックなども同時に見ます。

安定しているなら、検査前確率から始める

血圧が保たれていて、すぐに崩れそうではない。

この場合は、落ち着いて診断戦略を組みます。

ここで重要なのは、いきなりDダイマーを出さないことです。

まず、「この患者はPEがどれくらいありそうか」を考えます。これが検査前確率です。

検査前確率を置かずにDダイマーを出すと、陽性でも陰性でも解釈に困ります。

  • 高リスク患者のDダイマー陰性を過信する
  • 低リスク患者のDダイマー軽度陽性に引っ張られる
  • 高齢者・炎症・悪性腫瘍・術後で陽性になり、CTが増える

PE診断では、検査そのものよりも、検査を使う前の整理が重要です。

ステップ2:安定例では、検査前確率を置く

血行動態が安定しているPE疑い患者では、まず検査前確率を評価します。

ここで使う代表的な道具が、Wellsスコアです。

Wellsスコア:PEらしさを言語化する

Wellsスコアは、単に点数を足すための表ではありません。

本質は、PEがどれくらいありそうかを、臨床所見に基づいて言語化することです。

Wellsスコアでは、以下の項目を確認します。

  • DVTを疑う下肢症状・徴候:3点
  • PE以外の診断の可能性が低い:3点
  • 心拍数 > 100/分:1.5点
  • 最近の手術または3日以上の臥床・固定:1.5点
  • DVT/PEの既往:1.5点
  • 喀血:1点
  • 活動性悪性腫瘍:1点

実践では、2段階分類が使いやすいです。

  • PE likely:Wells > 4点
  • PE unlikely:Wells ≤ 4点

PE likelyなら、原則としてDダイマーで粘らず、CTPAまたは代替画像検査を考えます。

PE unlikelyなら、PERCやDダイマーを用いて除外できるかを考えます。

Wellsスコアは万能ではない

一方で、Wellsスコアにも限界があります。

特に「PE以外の診断の可能性が低い」という項目は、臨床医の主観が入ります。つまり、経験や状況によって点数が変わりえます。

また、高齢者、担癌患者、入院患者、術後患者、感染症患者では、Dダイマーが陽性になりやすく、スコアとDダイマーだけで診断戦略を単純化しすぎると、過剰CTにもつながります。

そらいろメモ

Wellsスコアは「点数を暗記して使うもの」というより、PEらしさを一度立ち止まって整理するための道具だと考えています。

特に若手のうちは、「なんとなくDダイマー」ではなく、「この患者のPEらしさはどこから来ているのか」を言語化する癖をつけるだけで、診断の質がかなり変わります。

3段階分類も臨床感覚としては有用ですが、まずはPE likely / PE unlikelyの2段階を軸にした方が診断の順番は崩れにくいと思います。

ステップ3:かなり低リスクならPERCを使う

PERCは、Pulmonary Embolism Rule-out Criteriaの略です。

ここで大切なのは、PERCの使いどころです。

PERCは、PEを疑ったすべての患者に使うチェックリストではありません。

使うべき場面は、臨床的にPEの可能性がかなり低いと考えている場面です。

たとえば、「PEはかなり低そうだが、Dダイマーを出すと偽陽性になってCTまで進みそう」という患者で、追加検査を始めるべきかどうかを判断するために使います。

PERC 8項目

  • 年齢 < 50歳
  • 心拍数 < 100/分
  • 室内気SpO₂ ≥ 95%
  • 喀血なし
  • エストロゲン製剤使用なし
  • 最近の手術・外傷なし
  • DVT/PE既往なし
  • 片側下肢腫脹なし

PEの臨床的疑いが低く、PERCがすべて陰性であれば、DダイマーやCTを行わずにPEを除外する選択肢を考えます。

PERCの誤用

逆に、以下のような使い方は危険です。

  • PEをかなり疑っているのに、PERC陰性だから安心する
  • 中等度以上の検査前確率でPERCを使う
  • PERC陽性をPE診断のように扱う
  • PERC陰性を「絶対にPEなし」と解釈する
POINT

PERCは「PEを否定する魔法のルール」ではありません。

そもそもPEの可能性が低い患者で、Dダイマーを出さないための道具です。

ステップ4:Dダイマーは“除外検査”として使う

PE診断で最も誤解されやすい検査が、Dダイマーです。

Dダイマーは便利ですが、使い方を間違えると、見逃しにも過剰検査にもつながります。

Dダイマーは、PEを診断する検査ではありません。

PEを除外するための検査です。

そして、Dダイマーで除外できるかどうかは、検査前確率に依存します。

PE unlikelyならDダイマー

Wells ≤ 4点、または臨床的に低〜中等度リスクと考える場合には、高感度Dダイマーを用いてPE除外を考えます。

  • Dダイマー陰性:PEはかなり否定的。代替診断を考える。
  • Dダイマー陽性:PEを除外できないため、CTPAなど画像診断へ進む。

Dダイマー陽性は、PE診断ではない

Dダイマーは血栓形成と線溶を反映する検査ですが、PEだけで上がるわけではありません。

たとえば、以下のような状況でも上昇します。

  • 感染症
  • 炎症
  • 外傷
  • 術後
  • 妊娠・産褥
  • 悪性腫瘍
  • 高齢
  • 入院中の急性疾患

したがって、Dダイマー陽性はPE診断ではありません。

陽性なら、「PEを除外できないので次の検査へ進む」材料になります。

高PTPではDダイマー陰性でも安心しない

PEがかなり疑わしい患者では、Dダイマー陰性だけで除外するのは危険です。

「Dダイマー陰性だから大丈夫」ではなく、「この患者の検査前確率で、Dダイマー陰性をどこまで信じられるか」を考えます。

ここに注意!

Dダイマー陽性はPE診断ではありません。

Dダイマー陰性も、どんな状況でもPE除外を保証するわけではありません。

必ず検査前確率とセットで解釈します。

ステップ5:年齢調整Dダイマーをどう使うか

高齢者ではDダイマーが上がりやすく、従来の固定カットオフでは偽陽性が増えます。

そのため、50歳を超える患者では、年齢調整Dダイマーを考慮します。

代表的には、以下の式です。

50歳超:年齢 × 10 μg/L FEU

たとえば、70歳なら700 μg/L FEU、80歳なら800 μg/L FEUを目安にします。

この方法は、高齢者の不要なCTPAを減らすうえで有用です。

ただし、これも検査前確率が前提です。PE likelyの患者に対して、年齢調整Dダイマーだけで安易に除外するためのものではありません。

ここに注意!

Dダイマーの単位やカットオフは、施設の測定法・試薬・表示単位によって異なります。

本文中の「500 ng/mL」「1000 ng/mL」「年齢 × 10 μg/L FEU」は、FEU表記を前提とした代表的な説明です。実際の運用では、必ず自施設の基準値と単位を確認してください。

POINT

年齢調整Dダイマーは、日本の救急外来と相性がよい考え方です。

ただし、使う前提は低〜中等度の検査前確率です。高PTP患者を年齢調整Dダイマーだけで帰宅させるための道具ではありません。

ステップ6:YEARSとPEGeDをどう位置づけるか

近年は、固定カットオフのDダイマーだけでなく、臨床確率に応じてDダイマー閾値を変える戦略が使われるようになっています。

代表が、YEARSアルゴリズムとPEGeDです。

これらは、不要なCTPAを減らすための現代的な診断戦略として重要です。

ただし、若手向けには、まずWells、PERC、年齢調整Dダイマー、CTPAの標準的な流れを理解したうえで、追加戦略として位置づけるのが安全です。

YEARSアルゴリズム

YEARSでは、以下の3項目を確認します。

  • DVT徴候がある
  • 喀血がある
  • PEが最も疑わしい診断である

基本的な考え方は以下です。

  • YEARS項目 0個:Dダイマー < 1000 ng/mLならPE除外を考える
  • YEARS項目 1個以上:Dダイマー < 500 ng/mLならPE除外を考える
  • 上記を満たさない:CTPAへ進む

YEARSは、不要なCTPAを減らすための戦略として有用です。

PEGeDアルゴリズム

PEGeDは、臨床的検査前確率に応じてDダイマー閾値を変える考え方です。

  • 低い検査前確率:Dダイマー < 1000 ng/mLでPE除外を考える
  • 中等度の検査前確率:Dダイマー < 500 ng/mLでPE除外を考える
  • 高い検査前確率:Dダイマーで粘らず画像診断へ進む

ただし、PEGeDについては外部検証で注意点も示されています。特に、低PTPかつDダイマーが1000未満でも、年齢調整カットオフを超える患者では慎重な解釈が必要です。

そらいろメモ

YEARSやPEGeDは魅力的ですが、「最初からこれだけを使えばよい」と考えると危険です。

まずは、Wells/PERC/年齢調整Dダイマー/CTPAの標準的な流れを理解する。そのうえで、施設内で使い方が共有されている場合に、YEARSやPEGeDをCTPA削減戦略として使う、という位置づけが現実的です。

ステップ7:CTPAに進む場面

CTPA、つまりCT pulmonary angiographyは、PE診断の中心となる画像検査です。

以下の状況では、CTPAを考えます。

  • Wells > 4点でPE likely
  • 低〜中等度リスクだがDダイマー陽性
  • PERCを満たさない低リスク患者で、Dダイマー陽性
  • YEARSまたはPEGeDでPEを除外できない
  • 臨床的にPEを否定しきれない
  • PE以外の重篤疾患も含めて胸部造影CTが必要

ここで重要なのは、単に「Dダイマー陽性だからCT」ではないことです。

検査前確率とDダイマーを組み合わせてもPEを除外できないから、CTPAに進むと考えます。

CTPAで見えるもの

CTPAでは、肺動脈内の血栓を直接評価できます。

また、PE以外の鑑別疾患、たとえば肺炎、気胸、大動脈疾患、胸水、腫瘍性病変などが見つかることもあります。

一方で、造影剤、腎機能、被ばく、妊娠可能性、施設の検査体制なども考慮が必要です。

ここに注意!

CTPAは非常に有用ですが、全例に無差別に行う検査ではありません。

一方で、高リスク患者やPE likelyの患者で、DダイマーやPERCに引っ張られて画像診断が遅れるのも危険です。

ステップ8:CTPAに行けないときの代替戦略

PE診断では、CTPAが重要です。

しかし、すべての患者がすぐにCTPAへ行けるわけではありません。

  • ショックで移動が危険
  • 高度腎機能障害がある
  • 造影剤アレルギーがある
  • 妊娠中または妊娠可能性がある
  • 被ばくリスクをできるだけ下げたい
  • 施設的にCTやV/Qの利用に制限がある

このような場合は、代替検査やベッドサイド評価を組み合わせて考えます。

V/Q scan・V/Q SPECT

造影剤アレルギー、高度腎機能障害、被ばくリスクが問題になる場合には、V/Q SPECTまたはV/Q scanが代替検査になります。

ただし、利用可能性と読影体制は施設差が大きいため、自施設でどこまで使えるかを確認しておく必要があります。

下肢静脈エコー

PEは深部静脈血栓症(DVT)と同じVTEの一部です。

PEが疑われる患者で、下肢静脈エコーにより近位DVTが確認できれば、VTEとして治療開始の根拠になります。

特に、CTPAが困難な患者では重要な情報になります。

ただし、下肢静脈エコーが陰性でもPEは否定できません。

心エコー

心エコーは、特に不安定なPE疑いで重要です。

右室拡大、D-shape、右室機能低下、三尖弁逆流、肺高血圧を示唆する所見などは、PEによる循環不全を支持します。

ただし、安定した患者でPEを除外する検査として心エコーを使うのは適切ではありません。

POINT

CTPAに行けないPE疑いでは、V/Q scan、下肢静脈エコー、心エコーを組み合わせます。

ただし、それぞれの検査には役割と限界があります。特に、下肢静脈エコー陰性や心エコー正常だけでPEを除外しないことが重要です。

ステップ9:診断後はPESI/sPESIと右心負荷で重症度評価へ

PE診断は、「あるか、ないか」で終わりではありません。

診断後は、どれくらい危ないPEなのかを評価します。

評価するポイントは以下です。

  • 血行動態:ショック、持続低血圧、酸素需要
  • 右心負荷:CT、心エコー
  • 心筋障害:トロポニン
  • 心不全負荷:BNP/NT-proBNP
  • 全身状態:乳酸、臓器障害、意識状態
  • 予後スコア:PESI、sPESI

同じPEでも、外来管理を検討できる低リスクPEから、ICU管理、血栓溶解療法、カテーテル治療、外科的血栓摘除、ECMOまで考える高リスクPEまで幅があります。

そのため、PEを診断したら、次は治療方針を決めるためのリスク層別化に進みます。

PESI/sPESIの位置づけ

PESIやsPESIは、PE患者の予後評価に用いられるスコアです。

低リスクPEで外来治療や早期退院を考える際に有用ですが、スコアだけで機械的に帰宅を決めるものではありません。

実際には、以下もあわせて確認します。

  • 酸素投与が必要か
  • 右心負荷があるか
  • トロポニンやBNPが上昇しているか
  • 出血リスクが高くないか
  • 抗凝固薬を安全に内服・継続できるか
  • 自宅で悪化時に再受診できる環境があるか

2026 AHA/ACC系ガイドラインの方向性

2026年のAHA/ACC/ACCP/ACEP/CHEST/SCAI/SHM/SIR/SVM/SVNによる急性PEガイドラインでは、急性PEを低リスクから高リスクまでより細かく分類する臨床カテゴリーが提示されています。

大まかには、無症候または低リスクで外来管理を検討できる患者から、右室機能障害やバイオマーカー上昇を伴う患者、切迫する心不全、持続低血圧を伴う患者まで、重症度に応じて入院、ICU入室を考える方向性です。

つまり、PE診断後は「抗凝固を始めるか」だけでなく、どこで、誰と、どの強度で管理するかを決める必要があります。

診断後の考え方

PEは見つけて終わりではありません。

抗凝固だけでよいPEなのか、ICU管理・再灌流療法・PERT相談が必要なPEなのかを見極めることが次のステップです。

肺塞栓症を見逃さないための実践ステップ

最後に、救急外来での考え方をシンプルにまとめます。

  1. PEを疑う入口を持つ
    胸痛、呼吸困難、失神、頻脈、低酸素、DVT症状、悪性腫瘍、術後、長期臥床、エストロゲン製剤、妊娠・産褥などを確認する。
  2. 血行動態を確認する
    ショック、持続低血圧、心停止、失神、右心負荷があれば高リスクPEとして考える。
  3. 安定例では検査前確率を置く
    Wellsスコアや臨床判断で、PE likelyかPE unlikelyかを整理する。
  4. かなり低リスクならPERCを考える
    PERC陰性なら、Dダイマーを出さない選択肢を検討する。
  5. 低〜中等度リスクならDダイマーを使う
    陰性なら除外方向。陽性ならCTPAなど画像診断へ進む。
  6. 50歳超では年齢調整Dダイマーを考慮する
    ただし、検査前確率が低〜中等度であることが前提。
  7. YEARS/PEGeDはCTPA削減戦略として理解する
    有用だが、施設内で運用が共有されていることが望ましい。
  8. CTPA困難例では代替検査を考える
    V/Q scan、下肢静脈エコー、心エコーを組み合わせる。
  9. 診断後は重症度評価へ進む
    PESI/sPESI、右心負荷、バイオマーカー、酸素需要、出血リスクを評価する。

まとめ:PE診断は「疑う→確率を置く→除外する→画像へ進む」

肺塞栓症は、症状が非特異的で見逃されやすい疾患です。

胸部X線がきれいでも、SpO₂が保たれていても、心電図が非特異的でも、PEは否定できません。

重要なのは、診断の順番です。

  1. PEを疑う入口を持つ
    胸痛、呼吸困難、失神、頻脈、低酸素、DVT症状、悪性腫瘍、術後、長期臥床などを確認する。
  2. 血行動態で分ける
    不安定なら高リスクPEとして、診断と治療を並行する。
  3. 安定例では検査前確率を置く
    Wellsスコアや臨床判断で、PE likelyかPE unlikelyかを整理する。
  4. かなり低リスクならPERC
    PERC陰性なら、Dダイマーを出さずにPE除外を考える。
  5. 低〜中等度リスクならDダイマー
    陰性なら除外方向。陽性ならCTPAへ進む。
  6. 年齢調整Dダイマーを考慮する
    50歳超では、低〜中等度リスクに限って年齢調整カットオフを考える。
  7. YEARS/PEGeDはCTPA削減戦略として理解する
    有用だが、施設内で使い方が共有されていることが望ましい。
  8. CTPA困難例では代替検査を考える
    V/Q、下肢静脈エコー、心エコーを組み合わせる。
  9. 診断後は重症度評価へ進む
    PESI/sPESI、右心負荷、バイオマーカーを評価し、治療方針につなげる。

PE診断で危ないのは、Dダイマーを知らないことではありません。

検査前確率を置かないまま、DダイマーやCTの結果だけで判断してしまうことです。

「この患者は本当に低リスクなのか」

「Dダイマーで除外してよい状況なのか」

「CTPAに進むべき理由は何か」

この3つを言語化できると、PE診断の安全性はかなり上がります。

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