血液ガスを見ると、ついpHに目がいきます。
pHが低い。PaCO₂が高い。HCO₃⁻が低い。乳酸が上がっている。
どれも大切な情報です。
ただ、ERやICUで血液ガスを読むとき、本当に大切なのは「異常値を見つけること」だけではありません。
この患者さんは、いま何で困っているのか。
酸素化なのか。換気なのか。酸塩基/代謝なのか。循環/灌流の問題なのか。
血液ガスは、そこを考えるための検査です。
この記事では、血液ガスを単に「pHを分類する検査」としてではなく、ER・ICUで患者さんの病態を見直し、そして次に何を確認しにいけばいいのか、考えるための検査として整理します。
血液ガスは、pHを分類するためだけの検査ではありません。
PaO₂から酸素化を考える。PaCO₂から換気を考える。pH・PaCO₂・HCO₃⁻から酸塩基異常を考える。乳酸やBEから循環/灌流や代謝ストレスの手がかりを考える。
そして最後は、患者さんに戻る。血ガスを読むということは、数字をきっかけに患者さんを見直すことだと思います。
なぜ血液ガスは読みづらいのか
血液ガスが読みづらい理由の1つは、その扱う項目が多いからです。
pH、PaO₂、PaCO₂、HCO₃⁻、BE、乳酸、SaO₂、電解質、血糖。
慣れないうちは、どこから見ればよいのか分からなくなります。
さらに、血液ガスには「数字を読む」だけでは終わらない難しさがあります。
たとえば、pHが低いと分かったとしても、次に考えたいのは「なぜpHが低いのか」です。
PaCO₂が高いのか。HCO₃⁻が低いのか。
乳酸が上がっているのか。腎不全やケトン、下痢、中毒などが関係しているのか。
つまり血液ガスは、単に正常値から外れている項目を探す検査ではありません。
血液ガスをきっかけに、患者さんの呼吸・循環・代謝をもう一度見直す検査です。
血ガスは「答え」ではなく「問い」を返してくる
血液ガスは、病名を出してくれる検査ではありません。
pH 7.28だから、この病気。乳酸 5だから、この診断。PaCO₂ 70だから、この治療。
そういうものではありません。
血ガスは、むしろ問いを返してくる検査です。
PaO₂が低い。
では、どれだけ酸素を入れてその値なのか。
PaCO₂が高い。
では、患者さんは呼吸でどれだけ頑張っているのか。
HCO₃⁻が低い。
では、代謝側で何が起きているのか。
乳酸が高い。
では、低灌流やショックを見逃していないか。あるいは、他の代謝ストレスが関係していないか。
pHが正常。
では、本当に正常なのか。呼吸と代謝が相殺して、見かけ上きれいに見えているだけではないのか。
血ガスを読むというのは、数字を処理することではありません。
数字から問いを立てて、患者さんに戻ることです。
まず持ちたい4つの視点(酸素化・換気・酸塩基平衡・循環)
血液ガスには、たくさんの数字が並んでいます。
最初は、どこから見ればよいか分からなくなります。
そこで、まずは4つの視点に分けると見通しがよくなります。
1つ目は、酸素化。酸素を血液に取り込めているか。
2つ目は、換気。CO₂をちゃんと捨てられているか。
3つ目は、酸塩基平衡。体の中で酸と塩基のバランスがどう動いているか。
4つ目は、循環/灌流の手がかり。血液ガスだけで循環そのものを直接測れるわけではありませんが、乳酸、BE、pHの変化などは、循環や組織灌流を考える入口になります。
この4つに分けると、血ガスはかなり見通しがよくなります。
もちろん、それぞれが完全に独立しているわけではありません。
酸素化が悪くなれば呼吸仕事量が増える。
換気が破綻すればpHが動く。
循環が悪くなれば乳酸やBEに影響する。
代謝性アシドーシスがあれば呼吸で代償する。
血ガスは、患者さんの呼吸・循環・代謝が重なった結果です。

PaO₂の読み方:酸素化は酸素投与量とセットで見る
PaO₂を見ると、つい「低いかどうか」だけを見てしまいます。
でも、同じPaO₂ 75 mmHgでも、意味はまったく違います。
- 室内気(room air)でPaO₂ 75なのか。
- 酸素マスクでPaO₂ 75なのか。
- リザーバーマスクでPaO₂ 75なのか。
- 人工呼吸器でFiO₂ 0.8なのにPaO₂ 75なのか。
数字は同じでも、酸素化の危うさはまったく違います。
PaO₂は、単独では読めません。
PaO₂を見るときに大切なのは、「どれだけ酸素を入れて、そのPaO₂なのか」です。
酸素化を見るときには、SpO₂も大切です。
ただし、SpO₂も「数字が何%か」だけでは読み切れません。酸素投与量、波形の信頼性、末梢循環、呼吸仕事量、患者さんの見た目と合わせて読みます。
酸素投与の目標も、患者背景で変わります。
一般的には、高CO₂性呼吸不全リスクがない急性期患者ではSpO₂ 94〜98%、COPDなど高CO₂性呼吸不全リスクがある患者では88〜92%を目標範囲とするように言われています。
PaO₂やSpO₂は、数字だけで読んではいけません!
どんな患者さんに、どの目標で、どれくらい酸素を入れて、その結果どうなっているのか。そこまで見て、はじめて酸素化が読めます。
PaO₂を見たら、酸素投与量、SpO₂波形、呼吸数、呼吸努力、画像所見へ戻る。
これだけでも、血ガスの読み方はかなり変わります。
PaCO₂の読み方:換気は呼吸仕事量とセットで見る
PaCO₂は、換気を見るための重要な数字です。
ただし、PaCO₂が高いから危険、PaCO₂が正常だから安心、という単純な話ではありません。
PaCO₂ 70 mmHgを見たとき、
- 急性に上がったのか
- 慢性的に高いのか
- pHはどれくらい下がっているのか
- HCO₃⁻は上がっているのか
- 意識はどうか
- 呼吸仕事量はどうか。
これらで見え方は変わります。
PaCO₂は「換気の数字」ですが、実際に怖いのは数字そのものだけではありません。
患者さんが、
そのCO₂を捨てるためにどれだけ頑張っているか。
その努力が続きそうなのか。もう疲れてきていないか。
ここを見る必要があります。
PaCO₂を見たら、必ず患者さんのところに戻ります。
呼吸数、努力呼吸、補助筋の使用、発汗、会話可能か、眠そうではないか、胸郭は上がっているか。
PaCO₂は換気の数字です。
でも、PaCO₂だけで判断するのではなく、呼吸仕事量とセットで読む。
これが換気を読む入口です。

pHとPaCO₂・HCO₃⁻の読み方:まず4つの酸塩基異常に分ける
血ガスが苦手になる大きな理由は、酸塩基だと思います。
- 代謝性アシドーシス。
- 呼吸性アシドーシス。
- 代謝性アルカローシス。
- 呼吸性アルカローシス。
- 代償。
- 混合性障害。
- anion gap。
一気に出てくると、かなりしんどい。
ただ、ER・ICUで血ガスを読むうえで、最初に押さえるべき構造はそこまで複雑ではありません。
まずは、pHがどちらに傾いているか。
その原因が呼吸側にありそうか。
代謝側にありそうかを見ます。
pHが低ければ、アシデミア。pHが高ければ、アルカレミア。
そして、PaCO₂は呼吸側の動き。HCO₃⁻は代謝側の動き。
ここまでは血ガスの基本です。
でも、実際の臨床では、ここで終わらせずに、次の4つに分けて考えます。

呼吸性アシドーシス
PaCO₂が上がり、pHがアシデミアへ傾く状態です。
換気が不十分で、CO₂を捨てきれていないときに考えます。
ここで見るべきなのは、PaCO₂の数字だけではありません。
- 患者の意識状態
- 呼吸回数、努力呼吸の有無、胸郭の挙上
- 使用している薬剤
- COPDなど呼吸器疾患や神経筋疾患の既往
- 呼吸サポートや人工呼吸器設定
などへ戻って確認します。
呼吸性アルカローシス
PaCO₂が下がり、pHがアルカリ側へ傾く状態です。
- 過換気発作
- 疼痛や不安など交感神経の過活動
- 低酸素
- 敗血症
- 肺塞栓
- 肝不全
上記だけに限らず、様々な病態で起こり得ます。
大切なのは、「過換気ですね」で終わらせないことです。
なぜこの患者さんはCO₂をここまで捨てているのかを考える必要があります。
代謝性アシドーシス
HCO₃⁻が下がり、pHが酸性側へ傾く状態です。
- 乳酸上昇による乳酸アシドーシス
- DKAによるケトーシス
- 腎不全
- 下痢
- 中毒
などを考える必要があります。
ここでは、酸が増えているのか、HCO₃⁻が失われているのかを考えます。
そのためにanion gapを測定し、参考にします。
代謝性アルカローシス
HCO₃⁻が上がり、pHがアルカリ側へ傾く状態です。
嘔吐、胃液喪失、利尿薬、低K血症、慢性的なCO₂貯留への代償などが背景にあります。
ICUでは、代謝性アルカローシスがCO₂貯留や人工呼吸器離脱に関係することもあります。
アシドーシスだけでなく、アルカローシスも軽視しない方がよいです。
酸塩基の4分類は、検査値に名前をつけるためではありません。
血ガスを見たあと、患者さんのどこを見に行くかを決めるための分類です。
ただし、ここで注意が必要です。
実際のER・ICUでは、患者さんの酸塩基異常は1つだけとは限りません。
代謝性アシドーシスがあり、それに対して呼吸性代償が起きている。
慢性的な呼吸性アシドーシスがあり、HCO₃⁻が上がっている。
代謝性アシドーシスと呼吸性アルカローシスが同時にあり、pHだけ見ると正常に近く見える。
こういうことが普通にあります。
pHが正常でも安心できません。
pHは、呼吸性要素と代謝性要素が合わさった最終表示です。pHがどちらに傾いているか、PaCO₂とHCO₃⁻がどちら向きに動いているか、その動きが代償として妥当そうかを考える必要があります。
乳酸(ラクテート)とBEの読み方:乳酸高値では、まずショックを見逃さない
乳酸(Lactate;ラクテート)が高い。
一般的には、≧2.0 mmol/Lを基準として、乳酸高値と考えます。
この情報は重いです。
ER・ICUでは、乳酸高値を見たら、まずショックや低灌流を見逃さないことが大切です。
一方で、乳酸だけで病態を決め打ちしてもいけません。
乳酸上昇には、低灌流だけでなく、代謝ストレス、薬剤、痙攣後、肝機能低下などが関与することがあります。
だから、乳酸を見たら、まずこう考えます。
ショックではないか。末梢は冷たくないか。尿量は落ちていないか。意識はどうか。
↓
感染巣はありそうか。
↓
肝機能はどうか。
↓
薬剤の影響はないか。
↓
乳酸は時間経過で下がっているのか。
順番が大切です。
最初に、ショックや低灌流を見逃さない。
そのうえで、乳酸だけで決め打ちしない。
乳酸は、循環/灌流や代謝ストレスを見に行くためのサインです。
単独の答えではなく、乳酸も他の指標と同様に患者さんを見直す入口です。
「乳酸はショックだけではない」と知っておくことは大切です。
ただし、順番を間違えないことも重要です。乳酸高値を見たら、まずショックや低灌流を見逃さない。そのうえで、他の原因や文脈を考えます。
静脈血液ガス(VBG)と動脈血液ガス(ABG)の使い分け
救急外来では、VBGで初期評価することも多いと思います。
そこで迷うのが、VBGでよいのか、ABGを取り直すべきなのか、という問題です。
ここで大切なのは、ABGとVBGの優劣を決めることではありません。
何を知りたいのかです。
- 酸塩基をざっくり見たいのか。
- HCO₃⁻を見たいのか。
- CO₂貯留をどこまで正確に見たいのか。
- 酸素化を評価したいのか。
- 治療介入後の変化を追いたいのか。
酸素化を見たいなら、もちろんVBGのPO₂をPaO₂の代わりに使ってはいけません。
一方で、酸塩基やHCO₃⁻をざっくり見たい場面では、VBGが役立つことがあります。
つまり、VBGかABGかは、「どちらが優れているか」ではなく、「何を知りたいか」で選ぶということです。
疾患名より先に、破綻している軸を見る
血液ガスは、疾患別パターンで学ぶこともできます。
DKA、COPD増悪、敗血症、肺炎、人工呼吸器管理中、CPA後、ショック、意識障害。
それぞれに典型的な血ガスのパターンがあります。
でも、パターン暗記だけでは不十分です。
大切なのは、疾患名ではなく、まず破綻している軸を見ることです。
酸素化が破綻しているのか。
換気が破綻しているのか。
酸塩基平衡が破綻しているのか。
循環/灌流が破綻しているのか。
代償はまだ効いているのか。
すでに破綻しかけているのか。
疾患名から血ガスを見るのではなく、血ガスから病態の軸を見る。
そのうえで、疾患に戻る。
これができると、血ガスはかなり臨床に近づきます。
血ガスを読んだあと、患者さんのどこへ戻るか
血ガスを読んだら、患者さんに戻る。
でも、これだけだと抽象的です。
実際には、どの数字が気になったかで戻る場所が少し変わります。
PaO₂が気になったら、酸素投与量、SpO₂波形、呼吸数、呼吸努力、画像、チアノーゼ、末梢循環を見る。
PaCO₂が気になったら、意識、呼吸仕事量、会話、胸郭挙上、補助筋の使用、発汗、NIVや人工呼吸器との同調を見る。
HCO₃⁻やBEが気になったら、乳酸値、腎機能、ケトン、嘔吐・下痢、輸液内容、慢性高CO₂の背景を考える。
乳酸が気になったら、末梢冷感・湿潤、尿量、意識、感染巣、肝機能、薬剤、治療反応を見る。
血ガスの数字は、患者さんに戻る方向を教えてくれるものです。
血液ガスをさらに学ぶためのロードマップ
ここまで読んで、「血液ガスはpHだけでは読めない」という感覚が少しでも見えてきたなら、次は学び方を整理する段階です。
血液ガスは、酸塩基だけでなく、呼吸・循環・代謝・人工呼吸器管理ともつながっています。
最初から分厚い本に突っ込むよりも、今の自分の段階に合った教材を選ぶ方が、ずっと効率よく学べます。
以下の記事では、血液ガスの本や教材を、初学者・研修医・ER/ICUで使いたい人向けに整理しています。
この記事で血ガスの全体像に興味を持った方は、次に読む教材選びの参考にしてください。

以下の記事では、人工呼吸器の本や無料教材を、初学者・研修医・ER/ICUで使いたい人向けに整理しています。
PaO₂やPaCO₂を、酸素化・換気・PEEP・人工呼吸器設定までつなげて学びたい方は、次に読む教材選びの参考にしてください。

まとめ
この記事で持ち帰ってほしいことは、6つです。
- PaO₂は、酸素投与量とセットで読む。
同じPaO₂でも、room airなのか高濃度酸素下なのかで意味は変わります。 - PaCO₂は、呼吸仕事量とセットで読む。
数字だけでなく、意識、努力呼吸、胸郭挙上、経時変化を見ます。 - 酸塩基は、4分類から患者さんのどこを見るかにつなげる。
呼吸性/代謝性、アシドーシス/アルカローシスの分類は、病態を見に行く方向を決めるために使います。 - pH正常でも安心しない。
PaCO₂とHCO₃⁻が大きく動いていれば、複数の異常が相殺されている可能性があります。 - 乳酸高値では、まずショックを見逃さない。
そのうえで、乳酸だけで病態を決め打ちしないことも大切です。 - VBGかABGかは、何を知りたいかで選ぶ。
酸素化を見たいのか、酸塩基を見たいのかで、必要な検体は変わります。
そして最後に、血ガスを読んだら患者さんに戻る。
これだけでも、次に血ガスを見るときの景色は少し変わるはずです。
血液ガスは、知識として覚えるだけではなかなか臨床につながりません。
本当に大切なのは、血ガスを見たあとに「この患者さんのどこを見に戻るか」が変わることだと思います。
実践編では、酸素化、換気、酸塩基、乳酸・BE、VBG/ABG、場面別応用に分けて、実際のER・ICUで迷いやすい血ガスをケース形式で読み解いていきます。
血ガスを「なんとなく苦手」から、「患者さんを見るための道具」に変えたい方に届く内容を目指しています。
実践編noteは公開後にリンクします。
参考文献・参考資料
- Arterial Blood Gas – StatPearls
- Interpretation of Arterial Blood Gases – American Thoracic Society
- Surviving Sepsis Campaign Guidelines 2021
- Bloom BM, et al. The role of venous blood gas in the emergency department
- British Thoracic Society Guideline for oxygen use in adults in healthcare and emergency settings
- Lactic Acidosis – StatPearls

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