さて、Today’s Paper解説の時間です。

今回は栄養についてのreviewを読んだので、それについてまとめます。
ICUで重症患者を診ていると、栄養管理はいつも悩みます。
挿管され、昇圧薬が入り、乳酸がまだ少し高い。AKIもある。けれど、入室から24〜48時間が経ち、そろそろ経腸栄養を始めたい。
このとき、つい考えたくなります。
「重症患者は筋肉が落ちるから、早く栄養を入れた方がよい」
「腸管が使えるなら、早めに目標量まで増やした方がよい」
「高栄養リスクなら、タンパク質もしっかり入れた方がよい」
どれも自然な感覚です。
私自身も、以前はこの感覚に近い部分がありました。
今回読んだのは
今回読んだのは、2025年にFrontiers in Nutritionから出版された、
「Protective nutrition strategy in the acute phase of critical illness: why, what and how to protect」
というreviewです。
このreviewは、さきほど私が挙げた直感にブレーキをかけてくれるような内容でした。
このreviewで提案されているのは、急性期重症患者に対するprotective nutrition strategy、つまり保護的栄養戦略という考え方です。
この記事では、このreviewを読んで私が改めて勉強したことを、若手医師・専攻医・ICUローテーター向けに整理します。
敗血症性ショックでICU入室した患者さん。挿管管理中で、ノルアドレナリンを使用しています。
乳酸は少し改善してきました。循環も完全ではありませんが、初期蘇生には反応してきています。
ここで迷います。
「経腸栄養を始めるべきか?」
「始めるなら、どこまで増やすべきか?」
「筋萎縮が心配だから、タンパク質も早めに入れるべきか?」
ICU急性期の栄養管理では、早く十分量を入れることが常に正解とは限りません。
大切なのは、早期に始めることと早期にフル量まで入れることを分けて考えることです。
急性期は、低用量から始め、循環・腹部所見・乳酸・血糖・TG・電解質・AKIなどを見ながら、患者の病相に合わせて調整する必要があります。
なぜICU急性期の栄養管理は迷いやすいのか
重症患者では、急性期から筋肉量が落ち、ICU-acquired weaknessも問題になります。
そのため、「栄養不足を避けたい」「筋萎縮を防ぎたい」という考えは自然です。
私も、初学者に説明するなら、まずは「栄養は大事」「腸管が使えるなら早めに使う」という話をします。
ただし、ここで一つ落とし穴があります。
それは、早期に栄養を始めることと、早期にフル栄養を達成することは同じではない、という点です。
今回のreviewが強調しているのは、まさにこの部分です。
急性期の重症患者では、炎症、カテコラミン、コルチゾール、インスリン抵抗性などにより、体内では内因性糖産生が進んでいます。
つまり、外から栄養を入れていなくても、体はすでに糖を作り出しています。
その状態で推定必要量をそのまま外から入れると、結果的にoverfeedingになり得ます。
ICU急性期の栄養管理は、「不足しているから、その分を足す」という単純な足し算では考えにくい場面があります。
患者の代謝が、今その栄養を受け止められる状態なのかを考える必要があります。
保護的栄養戦略とは何か
今回のreviewでは、protective nutrition strategy、つまり保護的栄養戦略という概念が提案されています。
これは、ARDSに対する肺保護換気戦略になぞらえた考え方です。
人工呼吸器では、酸素化を良くしたいからといって、一回換気量や圧をどんどん上げるわけではありません。
むしろ、肺を壊さないように、低一回換気量、プラトー圧制限、適切なPEEPなどを考えます。
同じように、栄養管理でも「必要量を満たす」ことだけを目標にするのではなく、急性期の消化管・代謝・臓器を壊さないように入れるという発想が必要ではないか。
これが、このreviewから私が最も強く受け取ったメッセージです。

保護する対象は3つある
このreviewでは、保護的栄養戦略を大きく3つの視点で整理しています。
- 消化管を守る
経腸栄養には腸管粘膜バリアを維持する意義があります。一方で、ショックや腸管低灌流がある患者では、無理な増量が経腸栄養不耐性や腸管虚血につながる可能性があります。 - 栄養吸収を守る
重症患者では消化吸収能が低下することがあります。入れた栄養がそのまま吸収・利用されるとは限りません。 - 代謝を守る
急性期には、ミトコンドリア機能低下、インスリン抵抗性、オートファジー、ケトン体生成などが関わります。フル栄養がこれらの適応反応を邪魔する可能性があります。
「肺保護換気のように栄養を考える」という比喩は、個人的にはかなり腑に落ちました。
人工呼吸器では、SpO₂だけを見て設定を上げすぎない。肺を壊さない設定を考える。
栄養でも同じように、「目標量に到達したか」だけを見るのではなく、急性期の代謝にとって過剰な負荷になっていないかを見る必要があるのだと思います。
ただし、肺保護換気ほど確立された治療戦略として扱うのはまだ早いとも感じます。現時点では、急性期栄養を考えるための有用なフレームとして捉えるのがよさそうです。
なぜ急性期フル栄養が問題になり得るのか
1. 内因性糖産生:外から入れていなくても、体は糖を作っている
急性期の重症患者では、炎症やストレスホルモンの影響で内因性糖産生が高まります。
これは、外から栄養を入れていないから完全にエネルギーゼロ、という状態ではないということです。
むしろ、体はすでにグリコーゲンやタンパク質、脂質を動員しながら、エネルギー基質を作っています。
その状態に外因性栄養を一気に重ねると、実際の代謝需要を超える可能性があります。
2. ミトコンドリア:入れた栄養を使える状態とは限らない
重症患者の急性期では、ミトコンドリアが通常通りにエネルギーを処理できるとは限りません。
そこへフルカロリーで基質を入れると、うまく利用できず、酸化ストレスや細胞障害につながる可能性があります。
栄養は「入れた量」ではなく、最終的には「利用された量」が問題です。
3. オートファジーとケトン体生成:飢餓反応にも意味がある
オートファジーは、損傷した細胞内構造物を分解・再利用する仕組みです。
急性期に高カロリー・高タンパクを入れることで、このオートファジーが抑制される可能性が論じられています。
また、相対的な低栄養状態ではケトン体生成が促進されます。これも単なる飢餓の副産物ではなく、炎症やミトコンドリア効率に関わる可能性があります。
もちろん、これを短絡して「ICUで絶食に近い方がよい」と考えるのは危険です。
ただ、急性期の低用量栄養を、単純に「足りない状態」とだけ捉えるのは浅いのだと思います。
この記事で言いたいのは、「栄養を入れない方がよい」という話ではありません。
早期経腸栄養には、腸管粘膜バリアの維持などの意義があります。
大切なのは、早期開始と早期フル投与を分けて考えることです。
主要RCTから見える現在地
このテーマを考えるうえで、いくつかの大きな臨床試験を押さえておくと理解しやすくなります。
ここでは詳細なPICOまでは踏み込みません。全体の流れだけ整理します。
EPaNIC:早くPNで不足分を埋めればよいのか
EPaNIC試験は、「不足分を早期から静脈栄養で補えばよい」という発想に疑問を投げかけました。
重要なのは、この試験が「栄養を入れない」ことを支持したわけではない点です。
問題になったのは、急性期から不足分を積極的にPNで埋めることでした。
NUTRIREA-2:ショック患者でENは常に安全か
NUTRIREA-2では、人工呼吸管理中のショック患者において、早期経腸栄養と早期静脈栄養が比較されました。
死亡率には差がありませんでしたが、経腸栄養群で腸管虚血や偽性腸閉塞が多いという結果が示されました。
これは、経腸栄養が悪いという意味ではありません。
ただし、ショック患者では腸管も低灌流の影響を受ける臓器である、という視点を忘れてはいけません。
NUTRIREA-3:最初の1週間は低用量でもよいのか
NUTRIREA-3では、人工呼吸管理中でショックを伴う患者に対して、最初の7日間の低カロリー・低タンパク投与と標準量投与が比較されました。
この結果から、少なくとも急性期ショック患者において、最初から標準量を急ぐことが常に有利とは言いにくいと考えられます。
EFFORT / PRECISe:高タンパク投与は本当に筋肉を守るのか
筋萎縮が心配になると、タンパク質をしっかり入れたくなります。
しかし、急性期の高タンパク投与が明確な利益を示すとは限らず、AKIや多臓器不全など一部の患者では害の可能性も示唆されています。
ここで重要なのは、高栄養リスク=早期高タンパクではないという点です。
主要RCT全体から見える流れは、「早く・多く・十分に」という直感を少し修正する方向です。
早期栄養そのものを否定するのではなく、急性期にフルカロリー・高タンパクを急ぐことに慎重になる、という理解が現実的です。
ベッドサイドで注意したい患者
実際のICUでは、全員を同じように考えることはできません。
特に注意したいのは、以下のような患者です。
ショック・高用量昇圧薬中の患者
循環が不安定な患者では、腸管も低灌流の影響を受けます。
経腸栄養を始めるかどうかは、昇圧薬の有無だけでなく、乳酸の推移、昇圧薬の増減、腹部所見、血性排液などを合わせて見ます。
AKIを合併している患者
AKIがある患者では、高タンパク投与に慎重になります。
入れたタンパク質が筋肉に使われるとは限らず、尿素産生や代謝負荷として返ってくる可能性があります。
Refeeding症候群リスクがある患者
低栄養、体重減少、長期摂食不良、アルコール多飲、長期絶食などがある患者では、栄養開始後のリン、カリウム、マグネシウム低下に注意します。
リン低下は、単に補正するだけではなく、栄養投与量を見直すサインでもあります。
経腸栄養不耐性が出てきた患者
胃残、腹部膨満、下痢はよくあります。
ただし、ショック患者で乳酸上昇、昇圧薬増量、血性胃液・血便などが重なる場合は、腸管虚血を鑑別に入れる必要があります。
私がこのreviewを読んで一番学んだこと
一番大きかったのは、栄養管理を「必要量達成率」だけで見てはいけない、ということです。
もちろん、栄養不足は問題です。
特に回復期に入っているのに、ずっと低用量のままでは、筋肉量や機能回復に悪影響が出る可能性があります。
ただ、急性期の最初の数日は、患者の代謝はかなり特殊です。
炎症が強く、インスリン抵抗性があり、内因性糖産生が高まり、ミトコンドリアも通常通りには働いていないかもしれない。
その状態で、目標量を埋めることだけを優先すると、栄養が“治療”ではなく“負荷”になる可能性があります。
私自身の感覚としては、急性期栄養は「足りないものを足す」よりも、「今の患者が受け止められる負荷を見極める」治療に近いと思いました。
これは輸液や人工呼吸器と似ています。
酸素も輸液も栄養も、必要なものです。
でも、必要なものだからといって、急性期に多ければ多いほどよいわけではない。
“足りない害”と“入れすぎる害”の両方を見るのが、集中治療なのだと思います。
誤解してはいけないこと
ここまで読むと、「急性期は栄養を控えればよい」と感じるかもしれません。
でも、それは違います。
早期経腸栄養には、腸管粘膜を維持し、腸管を使い続けるという意味があります。
また、低用量栄養が保護的に働き得るのは、主に急性期の話です。
回復期に入ってからも低用量のままでは、今度は栄養不足が問題になります。
- 急性期
ショック、炎症、臓器不全が強い時期。低用量から始め、overfeedingや不耐性を避ける。 - 安定化期
循環や臓器障害が改善し始める時期。モニタリングしながら少しずつ増量する。 - 回復期
炎症が落ち着き、リハビリや離床が進む時期。エネルギー・タンパク質不足を避け、機能回復を支える。
注:実際の栄養開始・増量・中止判断は、自施設のプロトコル、管理栄養士・NSTの介入体制、使用できる栄養剤、間接熱量測定の有無、上級医判断に従ってください。
まとめ
ICU急性期の栄養管理では、早く十分量を入れることが常に正解とは限りません。
大切なのは、早期開始と早期フル投与を分けることです。
急性期には、内因性糖産生、インスリン抵抗性、ミトコンドリア機能低下、オートファジー、ケトン体生成などが関わり、フルカロリー・高タンパク投与が代謝的負荷になる可能性があります。
一方で、早期栄養そのものが悪いわけではありません。
低用量から始め、循環、腹部所見、乳酸、血糖、TG、リン、AKIなどを見ながら、段階的に調整することが重要です。
栄養は、ICU管理の中でつい「処方欄の問題」として見てしまいがちです。
でも本当は、呼吸管理や循環管理と同じように、患者の病相を見ながら日々調整する集中治療なのだと改めて感じました。
今回のreviewが、そのことを改めて考えるきっかけになりました。
この記事では、ICU急性期の栄養管理について、早期フル栄養に注意が必要な理由と、保護的栄養戦略の考え方を整理しました。
ただ、実際のベッドサイドでは、ここからが難しくなります。
昇圧薬中に経腸栄養を始めるのか。AKI患者に高タンパクを入れるのか。リンが下がったら栄養を減らすのか。腹部膨満と乳酸上昇を見たとき、経腸栄養を止めるのか。
実践編noteでは、これらを5つの症例で、Dayごとの数値と判断分岐を使って解説します。
実践編noteでは、ICU急性期の栄養管理を症例ベースで解説します。
敗血症性ショック、AKI合併、Refeeding症候群、経腸栄養不耐性、overfeedingを疑う場面など、実際に迷いやすい判断を具体的な数値とともに整理します。
実践編noteは公開後にリンクします。
参考文献
- Wang Y, Li Y, Li N, Li Y, Li H, Zhang D. Protective nutrition strategy in the acute phase of critical illness: why, what and how to protect. Frontiers in Nutrition. 2025;12:1555311. doi:10.3389/fnut.2025.1555311.
- Casaer MP, Mesotten D, Hermans G, et al. Early versus late parenteral nutrition in critically ill adults. New England Journal of Medicine. 2011;365:506-517.
- Reignier J, Boisramé-Helms J, Brisard L, et al. Enteral versus parenteral early nutrition in ventilated adults with shock: NUTRIREA-2. Lancet. 2018;391:133-143.
- Reignier J, Plantefeve G, Mira JP, et al. Low versus standard calorie and protein feeding in ventilated adults with shock: NUTRIREA-3. Lancet Respiratory Medicine. 2023;11:602-612.
- Heyland DK, Patel J, Compher C, et al. The effect of higher protein dosing in critically ill patients with high nutritional risk: EFFORT Protein. Lancet. 2023;401:568-576.
- Bels JLM, Thiessen S, van Gassel RJJ, et al. Effect of high versus standard protein provision on functional recovery in people with critical illness: PRECISe. Lancet. 2024;404:659-669.
- McClave SA, Taylor BE, Martindale RG, et al. Guidelines for the provision and assessment of nutrition support therapy in the adult critically ill patient. JPEN. 2016;40:159-211.
- Compher C, Bingham AL, McCall M, et al. Guidelines for the provision of nutrition support therapy in the adult critically ill patient. JPEN. 2022;46:12-41.

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