ICUや救急外来で人工呼吸器管理をしていると、突然こう呼ばれることがあります。

先生、人工呼吸器アラームが鳴ってます!
SpO₂も下がって来ていて、患者さんが苦しそうな顔をしてます!
ベッドサイドに行くと、人工呼吸器がけたたましい音をたてて鳴っている。
その隣で、ベッドサイドモニターも鳴っている。
患者さんは挿管中で、苦しそうな表情を浮かべている。
看護師さんが心配そうにこちらを見ている。
この瞬間、正直かなり焦ります。
High pressure?
Low pressure?
Low tidal volume?
Apnea?
吸引する?
鎮静を深める?
グラフィックを見る?
上級医を呼ぶ?いろいろ考えたくなりますが、最初に大事なのは、原因を一発で当てることではありません。
患者さんが今、危ないかどうかを判断することです。
夜間ICU。肺炎で挿管・人工呼吸管理中の患者さん。
看護師さんから「先生、人工呼吸器アラームです。SpO₂も下がっています」と呼ばれます。
人工呼吸器にはアラーム表示。SpO₂は低下傾向。患者さんはやや苦しそうに見える。
このとき、最初に何を見るべきでしょうか。
人工呼吸器アラームで呼ばれたら、アラーム名は重要なヒントとして一瞬で把握!
ただし、アラーム名だけに固まらず、まずMASHで患者さんの危険度を見る。
そのうえで、DOPESで原因を整理する。
この順番で考えると、初動がかなり整理しやすくなります。
なぜ人工呼吸器アラーム対応は迷いやすいのか
人工呼吸器アラームが鳴ると、画面にはさまざまな情報が出ます。
- High pressure
- Low pressure
- Low tidal volume
- Low minute ventilation
- Apnea
- 回路リーク
- グラフィック波形の変化
ただ、ベッドサイドで本当に難しいのは、何のアラームが鳴っているのかをただ見つけることではありません。
そのアラームが、
- 患者さんの危険な変化を示しているのか
- 人工気道や回路の問題なのか
- 今すぐ人を呼ぶべき状態なのか
- 原因検索より先に換気確保へ動くべきなのか
を判断することです。
人工呼吸器アラーム対応の目的は、アラームを止めることではありません。
患者さんを守ることです。
まず押さえる全体像:MASHで患者を見て、DOPESで原因を整理する
人工呼吸器アラーム対応には、すべての場面にそのまま当てはまる万能フローチャートがあるわけではありません。
ただし、既存の教育フレームを使うと、かなり考えやすくなります。
この記事では、まず次の2つを押さえます。
- MASHで患者の危険度を見る
胸郭運動、酸素化、皮膚色・苦悶、循環安定性から、今この患者さんが危ないかを見る。 - DOPESで原因を整理する
チューブのずれ、閉塞、気胸・患者側問題、機械・回路、breath stackingなどを整理する。

この図表は、実践編noteではより詳しく解説します。
この記事では、まず考え方の全体像を押さえます。
MASH:まず患者さんが危ないかを見る
アラーム名は重要です。
しかし、アラーム名を見ている間にも、患者さんの酸素化や換気が崩れていくことがあります。
そこで、まず患者さんを見ます。
そのときに使いやすいのが、MASHという考え方です。
M:Movement of chest
胸郭運動です。
実際に胸が上がっているか。
左右差はないか。
人工呼吸器が送っている換気が、患者さんの胸に届いていそうか。
人工呼吸器の画面上で何かが表示されていても、胸が上がっていなければ、実際には換気できていない可能性があります。
A:Arterial saturation / oxygenation
酸素化です。
SpO₂が下がっていないか。
波形は信頼できるか。
急速に悪化していないか。
SpO₂の数字だけでなく、波形や患者さんの状態と合わせて判断します。
S:Skin colour / distress
皮膚色・苦悶です。
チアノーゼ、顔色不良、苦悶表情、強い呼吸困難感がないかを見ます。
「何となく苦しそう」という感覚も、初動では大事な情報です。
H:Hemodynamic stability
循環安定性です。
血圧低下、徐脈、ショック、冷汗、末梢冷感がないかを確認します。
低酸素だけでなく、循環が崩れている場合は、緊急度が一段上がります。
現場感としては、まずSpO₂、胸郭の動き、呼吸回数、循環をざっと見る感覚に近いです。
アラーム名はヒントにはなりますが、あくまで、患者さんの状態が主役です。
DOPES:次に原因を整理する
患者さんの危険度を見たら、次に原因を整理します。
人工呼吸中患者の急な悪化では、DOPESという考え方がよく使われます。
D:Displacement
チューブがずれた・抜けた、という問題です。
- チューブ逸脱
- 片肺挿管
- 抜管
チューブの深さ、固定位置、胸郭左右差を確認します。
O:Obstruction
どこかが詰まった、という問題です。
- 痰
- 血液
- 咬み込み
- チューブ屈曲
- 回路屈曲
胸郭挙上、吸引カテーテルの通り、バッグ換気時の抵抗などが手がかりになります。
P:Pneumothorax / Patient
気胸や患者側の問題です。
- 気胸
- 肺水腫
- 無気肺
- 気管支攣縮
- 肺コンプライアンス低下
急なSpO₂低下、胸郭左右差、血圧低下、用手換気でも入りにくい、といった所見に注意します。
E:Equipment failure
人工呼吸器や回路側の問題です。
- 回路外れ
- リーク
- 水貯留
- フィルター閉塞
- 機器トラブル
回路をたどり、接続・屈曲・水貯留・機器側の異常を確認します。
S:Stacked breaths
呼吸が重なる、という問題です。
- breath stacking
- auto-PEEP
- 強い非同調
波形、呼吸努力、呼気が終わる前に次の呼吸が入っていないかなどを見ます。
DOPESは診断を確定する道具ではありません。
人工呼吸器アラームで焦ったときに、原因を広く整理するための枠組みです。
アラーム名はヒント。でも診断名ではない
人工呼吸器アラームの名前は、原因検索の入口です。
| アラーム | ざっくりとした理解 | 考える入口 |
|---|---|---|
| High pressure | 入りにくい | ・閉塞 ・攣縮 ・肺が硬い ・気胸 ・非同調 など |
| Low pressure | 漏れる・外れる | ・回路外れ ・リーク ・抜管 ・カフ漏れ など |
| Low tidal volume | 量が入っていない 測れていない | ・リーク ・閉塞 ・コンプライアンス低下 ・非同調 など |
| Apnea | 自発がない 拾えていない | ・過鎮静 ・呼吸筋疲労 ・トリガー不良 など |
High pressureだから痰。
Low pressureだから回路外れ。
そう考えたくなりますが、単純化しすぎると危険です。
アラーム名をヒントにしつつ、MASHで患者を見て、DOPESで原因を整理する。これが基本です。
PCVとVCVでアラームの見え方は変わる
ここは、人工呼吸器アラームを理解するうえで重要です。
同じ患者さんの変化でも、換気モードによって「どのアラーム設定を意識して見るか」が変わります。
PCVではLow VT / Low MVに注意
PCVでは、ざっくり言えば「圧」を設定して換気します。
そのため、肺が硬くなる、気道抵抗が上がる、リークする、患者さんと呼吸器が合わない、といった変化があると、結果として入る一回換気量が下がることがあります。
つまり、PCVでは、
圧をかけているのに、量が入らない
という形で病態変化が見えてくることがあります。
VCVではPressure alarmに注意
VCVでは、一回換気量を設定しその分の圧をかけて入れようとします。
そのため、肺が硬くなる、気道抵抗が上がる、痰が詰まる、気管支攣縮が起きる、といった変化があると、設定した量を入れようとして気道内圧が上がりやすくなります。
つまり、VCVでは、
量を入れようとして、圧が上がる
という形で病態変化が見えてくることがあります。
これは単純な二分法ではありません。
PCVでも圧関連アラームは重要ですし、VCVでも圧上限に当たれば十分なVTが入らないことがあります。
大切なのは、何を固定していて、何が結果として変化するかを考えることです。
SpO₂低下+胸郭挙上不良なら、原因検索に粘らない
人工呼吸器アラームで呼ばれて、SpO₂が下がっている。
さらに、胸郭の挙上が悪い。
この組み合わせは、かなり重要です。
この時点で、患者さんは実際に換気できていない可能性が高いです。
この場合は、原因を完全に当てることよりも、とにかくまず安全確保を優先します。
- 人を呼ぶ
上級医、看護師、CEなど、必要な人を早めに集める。 - FiO₂を上げる
原因治療ではなく、原因検索と換気確保までの時間を稼ぐ。 - 用手換気を準備・検討する
胸郭挙上、バッグの硬さ、SpO₂、血圧を見ながら判断する。
用手換気は、単なる治療ではなく、診断にもなります。
バッグが硬いのか。
片側だけ胸郭が上がらないのか。
バッグでは入るのに人工呼吸器では入らないのか。
こうした情報は、DOPESで原因を整理する手がかりになります。
ICUではPEEP依存性の高い患者さんもいます。用手換気では、酸素化だけでなく、PEEPとそれに伴う循環の変化も同時に意識してみる必要があります。
「バッグで揉めばすべて解決」と単純化しすぎないことが大切です。
若手が陥りがちな落とし穴
人工呼吸器アラーム対応では、「何をするか」と同じくらい「何をしないか」が重要です。
アラームを消して終わる
消音は一時対応です。
当たり前ですが、静かになったから問題が解決したわけではありません。
とりあえず鎮静を深める
患者さんが苦しそうに見えると、鎮静を深めたくなることがあります。
しかし、低酸素、閉塞、気胸、代謝性負荷などが背景にある場合、鎮静だけで黙らせるのは危険です。
グラフィックとにらめっこする
グラフィックは大切です。
ただし、最初に患者さんとバイタルを見ずに画面だけを見続けて、あーだこーだ言ってても問題はなにも解決しないですよね。危険です。
High pressureを痰だけで終わらせる
気道内圧上昇を見たときの原因鑑別として、痰は重要です。
しかし、High pressureには、咬み込み、攣縮、気胸、肺コンプライアンス低下、非同調など、その他の原因を検索することが重要です。
一人で粘る
人工呼吸器アラーム対応では、どこまで自分で見るかだけでなく、どこで人を呼ぶかが重要です。
SpO₂が急速に下がる、胸郭挙上が悪い、血圧が下がる、徐脈になる、用手換気が必要になる。
こういう場面では、一人で粘らず早めに人を呼びます。
この記事で押さえておきたいこと
人工呼吸器アラーム対応で、最初からすべてを診断できる必要はありません。
まずは、次の流れを頭に置いておくとよいと思います。
- アラーム名はヒントとして一瞬で把握する
High pressure、Low pressure、Low VT、Apneaなどを確認する。 - MASHで患者の危険度を見る
胸郭運動、酸素化、皮膚色・苦悶、循環を確認する。 - 危ないなら安全確保を優先する
応援要請、FiO₂上昇、用手換気の準備を考える。 - DOPESで原因を整理する
ずれた、詰まった、気胸・患者側問題、機械・回路、呼吸が重なる、を考える。 - モードに応じてアラームの意味を読む
PCVではLow VT / Low MV、VCVでは圧アラームに注意する。
実践編では、症例ベースでさらに深掘りします
この記事では、人工呼吸器アラーム対応の全体像として、MASHとDOPESの考え方を中心に整理しました。
ただ、実際のベッドサイドでは、ここから先が難しいです。
- PCV中のLow tidal volume alarm、どう解釈する?
- SpO₂低下+胸郭挙上不良では、どの順番で何をする?
- 用手換気を準備するタイミングは?BVMを使う?ジャクソンリースを使う?
- PEEPと循環の関係をどう見るか?
- DOPESを実際の症例にどう当てはめて解釈するか?
- どこで応援を呼ぶか
- 若手がやりがちなNG初動をどう避けるか
まとめ
人工呼吸器アラームで呼ばれたとき、最初に必要なのは、原因を一発で当てることではありません。
まず、患者さんが今危ないかを見ることです。
そのために、
- MASHで患者の危険度を見る
- DOPESで原因を整理する
- 危ないなら安全確保を優先する
- アラーム名はヒントとして使う
- モードに応じてアラームの意味を読む
という流れを押さえておくと、初動がかなり整理しやすくなります。
アラーム対応の目的は、アラームを止めることではありません。
患者さんを守ることです。
実践編noteでは、PCV中のLow tidal volume alarm症例をベースに、最初の30秒で何を見るか、どこで人を呼ぶか、用手換気をどう考えるか、DOPESをどう使うかまで、より詳しく整理しています。
実践編noteは公開後にリンクします。

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