こんにちは、そらいろドクターです。
夜勤中の「何か忘れてる気がする」
夜勤中。担当患者の呼吸はOK、循環もOK、原疾患の評価も済ませた。
それでも、なんとなく「何か忘れてる気がする…」。そんな経験、ありませんか?
ICUでは、呼吸・循環・神経といった大きな問題に目が向きます。もちろん大切です。
でも、それだけで一日が終わると、鎮静が深いままだったり、不要なラインが入りっぱなしだったり、ということが起こりえます。
そんな夜、安心して眠るためのお守りになるのが、FAST HUGS IN BED Pleaseです。
毎日の診療で確認したい項目をまとめた語呂合わせで、私も抜け漏れを減らすための診療の型として使っています。
名前はちょっと不思議ですが、中身は至って真面目です。
今回は、その成り立ちと、ベッドサイドでの確認例を紹介します。
始まりは、2005年の「FAST HUG」
もともとは、Jean-Louis Vincentが2005年に提唱したFAST HUGです。
栄養、鎮痛、鎮静、血栓予防、頭部挙上、ストレス潰瘍予防、血糖管理の7項目を、日々確認するためにまとめたものでした。[1]
論文のタイトルは「Give your patient a fast hug (at least) once a day」。
少なくとも1日1回、患者さんの基本ケアを一通り見直そう、という提案です。
FAST HUGには、いくつかの拡張版があります。
2005年:FAST HUG
日々確認したい基本の7項目。
2009年:FAST HUGS BID
SBTや排便、カテーテルの抜去、抗菌薬の見直しを追加。[2]
LITFLで紹介されている:FAST HUGS IN BED Please
豪州の教育サイト、LITFL(Life in the Fast Lane)でChris Nicksonが紹介している拡張版。
皮膚・眼のケアや療養環境、心理社会的支援まで含みます。[3]
段々と語呂合わせが長くなる背景には、それだけICUで日々確認しなければいけないことが増えてきたことがあげられます。
そしてついに最後は「Please」、お願いまでされるようになりました。
FAST HUGS IN BED Pleaseの項目
14項目を、この記事では読みやすいように3つのブロックに分けました。英語と意味を並べ、ベッドサイドでの確認例を添えています。説明は日常管理向けに簡略化しています。[3]
① FAST HUGS:毎日の基本管理
ここは毎日の基本管理ゾーンです。
忙しい日ほど後回しになりやすいので、声に出して一周するのがおすすめです。
鎮静の項目では、患者さんが「眠っている」のか「眠らされている」のか、ちょっとだけ考えてみてください。
| 頭文字・英語 | 意味 | 確認すること |
|---|---|---|
| F:Fluid therapy and feeding | 輸液・栄養 | 水分バランスは? 栄養方法・投与量は? |
| A:Analgesia / Antiemetics | 鎮痛・制吐 | 痛みや吐き気は? ちゃんと評価できている? |
| S:Sedation / Spontaneous breathing trial | 鎮静・自発呼吸トライアル(SBT) | 鎮静は深すぎない? 今日はSBTを検討できる? |
| T:Thromboprophylaxis | 血栓予防 | 予防は適切? 出血リスクは変わっていない? |
| H:Head up position | 頭部挙上 | ベッドの角度は適切? 挙上できない理由はある? |
| U:Ulcer prophylaxis | ストレス潰瘍予防 | 予防の適応はある? 予防薬は今日も必要? |
| G:Glucose control | 血糖管理 | 高血糖・低血糖はない? 栄養とインスリン量は合っている? |
| S:Skin / eye care and suctioning | 皮膚・眼のケア、吸引 | 褥瘡や眼の乾燥はない? 分泌物への対応・頻度は? |
② IN BED:「入れっぱなし」を見直す
ラインや胃管に加え、排便、療養環境、続けている治療を見直します。ラインや胃管は、入れた理由はたいてい覚えているのに、抜くタイミングは誰かが言わないと逃しがちです。語呂は「IN BED」ですが、まだ寝てはいけません。足し算は得意でも、引き算(De-escalation)は意外と難しいものです。
| 頭文字・英語 | 意味 | 確認すること |
|---|---|---|
| I:Indwelling catheter | 留置カテーテル | ラインや尿道カテーテルは何が入っている? 今日も必要? |
| N:Nasogastric tube | 胃管 | 目的・位置・固定は? 今日も必要? |
| B:Bowel care | 排便管理 | 最後の排便は? 便秘・下痢や腹部膨満はない? |
| E:Environment | 療養環境 | 眠れている? 照明や音、見当識への配慮は? |
| D:De-escalation | 治療の縮小・中止 | 抗菌薬を含め、減らせる・やめられる治療は? |
③ Please:人へのケア
最後は人へのケアです。患者さんだけでなく、家族やスタッフも含まれます。
語呂を「お願いします」で締めてくれるところが、個人的には好きです。
| 頭文字・英語 | 意味 | 確認すること |
|---|---|---|
| Please:Psychosocial support | 心理社会的支援 | 患者さん・家族・スタッフに、必要な説明や支援が届いている? |
原文との違い:原文には、AのADT(破傷風・ジフテリアワクチンの追加接種)、TのTetanus prophylaxis(破傷風予防)も含まれます。Dは抗菌薬の見直しに限らず、不要な治療や終末期の治療方針も含みます。
「昨日と同じ」でよいか、一度見直す
私が意識しているのは、「入っているか」だけでなく、「今日も必要か」まで確認することです。
「昨日と同じ」は、昨日の自分からの申し送り。今日の自分が、そのまま受け取っていいかは別問題です。
- 鎮静は、今日もこの深さが必要か
- ラインやカテーテルは、今日も必要か
- 抗菌薬を含む治療は、今日も続けるべきか
当たり前ですが、重要ですよね。
もちろん、呼吸・循環の異常や原疾患の評価が優先です。
そのうえで、毎日の診療の中で一巡する合言葉が「FAST HUGS IN BED Please」です。
暗記できていなくても、まずは手元で見ながらで十分だと思います。
ぜひ、日々の診療で意識してみてください。
おまけ:回診前に見返せるチェックリスト
暗記できていなくても大丈夫、と言いつつ、手元にあると便利なので、14項目を1枚にまとめたチェックリストを作りました。保存して、回診前にスマホで開いたり、印刷してポケットに入れたりして使ってください。

あわせて読みたい
※人工呼吸器の教材記事には、書籍紹介・アフィリエイトリンクを含みます。
参考文献・リンク
Vincent JL. Give your patient a fast hug (at least) once a day.
Crit Care Med. 2005;33(6):1225–1229.
PubMed
Vincent WR 3rd, Hatton KW. Critically ill patients need “FASTHUGS BID” (an updated mnemonic).
Crit Care Med. 2009;37(7):2326–2327.
PubMed
Nickson C.
FAST HUGS IN BED Please!
LITFL.

コメント